伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第31回(第3章了)/方舟のファイサル
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

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第31回(第3章了)/方舟のファイサル

航海四日目――

“Salut, Shanghai.” (はじめまして、上海)

朝からデッキには、船客たちがずらりと並んで港を眺めていた。大半が日本で出稼ぎして故郷に錦を飾る中国人だ。やや多い日本人、わずかしかいない欧米人旅行者たち。そのうちのフランス人がそう叫んだ。

一九三〇年代に建設されたアールデコ様式の、刃物の先端を天に突き立てたかのようにシャープな線を強調したビル建築群・上海大厦もアールデコ様式の代表建築の一つだ。天上に挑戦するバベルのように上海にそそりたっている。手前の波止場に鑑真号は横付けされた。もともとフェリーである鑑真号からコンテナで囲われた物資が降ろされていく。

夏先生は税関ビルの玄関で別れた。待機していたのは上海市政府の公用車で、黒塗りのソビエト連邦製リムージン「チャイカ」だ。先生を乗せた車は市街地の中心に向かって行った。

上海雑伎団のパンダに続いて、サイドカー仕様のBMWオートバイ三台もでてきた。乗っているのは六人。ファイサルと婚約者である二人の女性、そして「兄弟」の三人だ。

昼近く、事務的で味家のない低いコンクリートビルの税関を抜けて、僕たちは記念撮影をした。鑑真号で最初に彩乃に声をかけた伸一がカメラをもって、僕と彩乃に、「もっとくっついて」といってはしゃいでいる。口髭の音楽家が二人の後に立って肩に手をやり、横には明がいて音楽家の肩に片手をやり、残る手でVサインをしていた。みんな笑顔だ。

口髭の音楽家が、「食事、おごるよ。上海大厦の一階には和食レストランがあって和風のカレーをだしているんだ。いきなり中華料理を食べると胃袋がびっくりするから、僕はまずはあそこでならすようにしている」といった。そこへサイドカーのオートバイがやってきて止まる。サングラスの男が降りてきて、コクピットから棒のようなものを引っ張り出した。

(自動小銃? まさか、そんなもの。なんで持ちこめたんだ!)

靴音を鳴らしてファイサルは、僕と彩乃の前に立った。いったい、どうなるというのだ。彼は手にした「自動小銃」を向けた。

  だっだっだっだっ。

途端、それは、ぱっ、と開く。

「あいあい傘。面白い絵になるから、プレゼントとするよ」

皆が腰をぬかさんばかりになるなか、ファイサルはサイドカーのコクピットに収まった。三台のサイドカーは、税関から始まる大名路を走り、ロシア領事館前と上海大厦で辻となる四川路を左折。上海ブリッジを渡って、バンドと呼ばれる昔日の金融街に消えていく。上海からおよそ八千キロも西に行けば故郷レバノンにたどり着く。あのままBMWに乗って、あの小さな「国家」は祖国にたどり着くのだろうか。彼なら夢をきっとかなえることだろう。僕はそんなふうに考えた。

 ☆

僕と彩乃はと日本に帰国してからも、しばらく電話や手紙をやりとりしていたのだが、顔を合わせないので自然と終わった。最後の手紙にはこう書いてあった。



私を護ってくれたことは一生忘れない。でも貴男は私じゃなくて、雫さんの代わりに護ったような気がする。いつも私以外の誰かを愛している「恋太郎」さん。だけど大好きよ。

  ☆

綾乃は僕にあだ名を付けた。風の噂によると彼女は、ファイサルを追って自らの意思でレバノン行きの飛行機に乗ったという。それもまたよいではないか。人生、ハッピーエンドばかりではつまらない。

第3章了

次回終章×2回
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