伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第28回/方舟のファイサル(謎の男ファイサルとは?)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
line

第28回/方舟のファイサル(謎の男ファイサルとは?)

航海三日目、朝――

船は東シナ海の只中を航行しているようだ。夏の終わりだったが、陽射しは朝食の時間になるとかなり高くなっている。青というか瑠璃色というか、そんな色の海原しかみえない。朝食を済ませて、夏先生の特等室を訪ねてみた。特に用があるというわけではない。

「おはよう、涼介君。お茶でも飲んで行きなさい」

先生は伏儀と女禍の水墨画を完成させていてそれをくれた。代わりに僕はスケッチブックを一枚切り取ってお返しをした。

「描いてみるかい?」

「ありがとうございます」

夏先生はお手本に鶴を描いた。迷いのない流麗な線は腕を宙に浮かせて一気に描かれたもの。背のあたりなど、ときに弧線となるところの頂きを強調して太くさせ、羽のあたりは細くて均一な線を重ねていく。

鶴の格好にはなるのだが、先生のような美しい線を真似ることはできない。それでも老紳士は、「素晴らしい」といって褒めてくれた。僕は水墨画に興味を覚えた。

丸窓から望める海と空と雲。特等室での語らいは、子供のころにランプ先生のアトリエのようで至福であった。

  ☆

昼近くに特等室を退出し、デッキにでると、口髭の音楽家の横笛が聴こえた。後から声がする。彩乃だ。

「昨日はごめんね」

「別に謝る事じゃない」 

「いろいろと迷惑をかけちゃったわ」 

「レバノン人、ファイサルっていうんだね。一緒にシャワーを浴びたよ」

綾乃は色白で切れ長の目をしている。彼女は絶句しつつ、僕の手を引っ張って行って、乗務員専用通路の扉を開けて押し込めた。刹那、唇を重ねてきた。ディープ・キス。会って間もないというのに、初めてのキスだというのに、彩乃は悩ましく舌先を口に侵入させてきた。優しく転がしてくる。巧みだ。シャツごしに乳房の温もりを感じる。

(なんて大胆なんだ!)

ストーカーに殺された恋人を守りきれなかった僕には自責の念が強くまだ癒されていない。事件直後は、一時的に記憶を失っていて、たどりついたところはランプ先生のアトリエだった。みつけた真希さんは胎児のようにうずくまった僕の背中を抱いてくれた。

綾乃に抱擁されたとき、不思議と、なくしていた記憶がよみがえった。彼女の手が股間に触れてきた。萎えている。

「病気?」

「ええ。正確には病み上がりです」

「そう……」

綾乃の指が僕のジーンズのジッパーを下げて、しゃがみこんだ。くわえるとでもいうのだろうか。驚いて一緒にしゃがむ。

「綾乃さんの価値は、綾乃さんが思っている以上に高いんですよ」

「生意気よ。お子ちゃまのくせに――」

その人が耳打ちしてから、耳たぶを噛んだ。僕は軽く悲鳴を上げる。

「来て、下に面白いのがいるよ」

僕の腕をとったまま彼女は階段を駆け下りていく。フェリーの自家用車収納庫だ。とはいっても自家用車は皆無で、数えるほどのオートバイとコンテナが積まれていた。

オートバイの中にはファイサルたちのサイドカーも置かれてある。他方、コンテナには、檻になっているものがあり、中から、白と黒の熊のような生き物がのそっと、こちらを凝視している。パンダだ。

「上海雑技団」のものだろう。サーカスでのパンダは、犬とコンビを組んで、犬が牽く荷車に載せられ、赤い三角帽を被りトランペットを鳴らして、会場を駆け巡る。パンダの横の折にいたサーカス犬が、人懐っこく尻尾を振って吠えてくる。

「乗務員にみつかると面倒だわ。逃げよう」

綾乃がまた腕を引っ張った。

戻る際、サイドカーを覗き込むとノートが開いたままになっている。びっしりと書き込まれた数字の配列は幾何学紋様のようでもあり美しい。数式だ。冒頭には、「E=mc²」とあった。

科学雑誌『ニュートン』に書いてあった。「E」はエネルギー、「m」は質量、「c」は光速を表している。アインシュタインの「核の方程式」。核爆弾でも造ろうというのか。

乗務員用通路の階段を昇るとき、僕は不覚にもスケッチブックを落としてしまった。転がっていくそいつを追って行った先で、腕を押さえられた。ルイビトンのサングラス。ファイサルと「兄弟」たちだ。


スポンサーサイト

theme : 自作小説(ファンタジー)
genre : 小説・文学

line

comment

Secret

line
line

line
Google ペイジランク
ページランク-ナビ
line
奄美剣星
line
文鳥貴族
文鳥貴族
line
最新記事
line
「怪盗めろん」

 

line
「文鳥王トリスタン」
 
line
ブクログ
line
小説家になろう
line
amazon書籍
line
アルパカ版の恋太郎です
line
映画『副王家の人々』より
副王家の一族 
line
イアリング
 ekubo
line
チャイナドレス
chainadoress
line
ポーズ
sofa
line
魯迅記念博物館
inu
line
陽だまりの乙女
usagi
line
裸婦
うつぶせのジャスミン
line
sakasu
line
打ち上げ花火をあげられる四季の風景時計
line
PC広告Amazon
line
テーブルと椅子
椅子3   
line
sub_line
プロフィール

奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)

Author:奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)
1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

line
ranking 1
 
line
ranking 2
人気ブログランキングへ
line
置手紙
おきてがみ     
line
Twitter ぼたん
Sweetsman7をフォローしましょう
line
レッドバロン
line
検索フォーム
line
QRコード
QRコード
line
所収作品について
文献・画像等引用の場合は引用元を記載。自作小説倶楽部作品著作権は各著者に帰属。それ以外の文藝作品・絵画写真画像に関する諸権利は当該ブログ管理人に帰属。無断複写転載を禁じます。
line
カジュアルのシナモン
シナモンアップ 
line
リンク
line
マラッカ要塞
marakka
line
珈琲館の割れ甕
城南
line
地図
line
草原の乙女
sougenn
line
バー
eruhurio  
line
海へ行こう
umiheyuku2
line
祖母
  umiheyuku 1
line
洗い髪
araigami
line
癒しの音楽
line
sub_line
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。