伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第25回/方舟のファイサル(謎の男ファイサルとは?)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

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第25回/方舟のファイサル(謎の男ファイサルとは?)


上部デッキにあるレストランから、下にある二等室大部屋に帰る途中に娯楽室がある。通りかかったとき、ちょっと立ち止まってあたりを見渡してみた。娯楽室は閑散としていた。というより、人がいつかない。

施設は一九七〇年代終わりに地方にあったドライブインののりだ。スロットマシン、パチンコ、ボールゲーム、射撃ゲーム、それに、ミュージック・ボックスがあった。ミュージック・ボックスはカラオケルームのようなドーム状の空間の中にある。湾曲した壁際にはドーナッツ形をしたシートが付設してあり、僕は郷愁から何気なくシートに座ってコインを入れてみた。

音楽はみんな古かった。アバ、カーペンターズ、クイーン。名曲だが七〇年代末から八〇年代初頭のものばかり。しかもドームの真ん中は踊り場になっていて、赤・青・黄色のスポットライトを放つボールまでついていた。    

(うわあっ、恥ずかしい)

席を発とうとしたとき、口髭の音楽家が、食事後の歯磨きをしながら娯楽室を横切り、気づかぬふりをしてドームの横を通り過ぎって行った。代わりに後の入り口から、ちょんと、横に座る気配がしてふとみるとそこに彩乃がいた。けっこう間隔は狭い、というよりか密着して座っているといったほうがいい。

「へええっ、涼介君って、ロマンチストなのね」

僕は胸が弾けんばかりになっていた。肩に、あたりまえのように彩乃は頭を斜めにして載せてきた。二人が身を寄せ合ってボックスにいると、先に大部屋に行っていた明と伸一がこちらへ引き返してきた。

二人とも驚いた顔をした。明はすぐに微笑んだのだが、伸一は不機嫌な顔になった。それから何も観なかったかのような様子で、デッキのほうへ歩いていってしまった。

彩乃が僕の横から飛び退いたのだが、二人が立ち去るとまた、肩に頭を載せてきた。

「涼介君、休学中なんだよね。暇でしょ?」

「そうですけど……」

「私とウルムチに行かない?」

ウルムチ。新彊ウイグル自治区の省都だ。正直、僕はは彩乃と旅行に行きたかった。けれども目的はアンダーソン土器をみることだ。土器は上海博物館でもあるだろうし、博物館でみれれば満足だ。旅費のこともある。

「少し考えさせてください」 

彩乃の提案は断るつもりだったが、彩乃をたてるため、ポーズだけはとろうとしたのだ。その人はしばらく僕の瞳をみつめてから、わずかに涙ぐみ、急に話題を変えた。

「ねえ、彼女とかいる?」

「いません」

「そう」

(こういう質問は、もっと早くにすべきじゃないのか)  

素朴な疑問だった。積極的な行動とは裏腹に慣れた感じがしない。会話が途絶えたところでいろいろ考えた。彩乃はいいところのお嬢様らしい。無防備で正直な娘、すれたところがない。それにしてもシルクロードに単身でいくのは危険すぎる。 

噂だけれども、西安からウルムチへ向かう列車で旅行していた邦人のグループが、ピストルで武装した二人組の強盗から金品を巻き上げられた話しとか、一人旅の中国人大学院生が誘拐されて売り飛ばされたという話しを耳にしたことがある。

「彩乃さん、なんでシルクロードに行きたいの?」

「ずっと憧れていたの。テレビで砂が風に流れる映像をみるでしょ。砂漠から顔を覗かせている古代の遺跡。なんて綺麗なんだって思ったわ」 

僕は少し間をおいてから話しを続けた。 

「シルクロードかあ、たしかに綺麗だね。テレビで観ていたら取材班はけっこう飛行機を利用していたよね。ガイドや人民解放軍もついていたし」 

「私、無計画かなあ」

僕は押し黙った。二人が沈黙していると、明と伸一たちがやってきたほうから、別な一行がやってきた。レバノン人の青年、同国の娘たちが二人いる。青年は彩乃の姿をみつけるとやってきて、にこやかに、口づけしようとしてきた。

(――ファイサル!)

東京の夜を支配していた男。やはり来ていたのだ。彩乃はマハラジャで侍っていた日本人娘だった。

彼女は、ちっ、と舌打ちしてから、片方の掌でそれをとめ、残る片方の掌で相手の頬を思いっきりひっぱたいた。ひっぱたかれた異国の男は片目をつぶって手を振り、そこから女性二人を引き連れてデッキの方に行った。また二人にはなったのだけれども、気まずい空気だ。

「訊かないの?」

「いいたくないんでしょ。いいですよ」 

「まだ他人だね」 

彩乃はそういって化粧室に行ってしまった。ミュージックボックスに取り残された僕は、肩のあたりからどっと疲れがのしかかってくるのを感じ大部屋に戻った。
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