伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第24回/方舟のファイサル(謎の男ファイサルとは?)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第24回/方舟のファイサル(謎の男ファイサルとは?)

夏先生はルームサービスで夕食を頼むとのこと。特等室を出た僕が行ったところは、レストランとは名ばかりで「大衆食堂ホール」というほうが相応しく思えた。ベージュ色の天井と壁、木調タイル風の床。一応は洋室でシャンデリアと観葉植物が置いてはあるのだが、大部屋で、テーブルには塩・胡椒やら、占いの機械やらが置いてある。窓からみえる夕日だけが洒落ているように感じた。

バイキング方式で、カウンターのケースに置かれたマグロのぶつ切りに山芋のおろしをかけたのをとり、端にあるレジで会計して席に着いた。窓際の四人用の四角いテーブルだ。白いテーブルクロスの上に透明な厚手をしたフィルターが敷かれている。すると横から声がかかった。

「あのお、相席してもいいですか?」

学生風の男女三人だった。断る理由もない。席に着いた三人は、明、伸一、彩乃と名乗り、いずれも鑑真号で知り合ったのだという。

夕食はお世辞にも美味しいとはいえる代物ではない。それでも旅の目的やら、家族友人やらの話しで盛り上がった。

明は上海経由で北京にいき紫禁城をみにいくといっていた。伸一は西安にいって始皇帝陵をみにいくのだといい、彩乃は、何年か前に、NHK『シルクロードの旅 第二部』があり、それが気に入ってシルクロードへ一人旅するのだといっていた。

彩乃は、都内の有名大学を卒業したばかりだという。シャツとジーンズ、シャンプーの香りのする、すらりと手足が伸び長い髪をした学生だ。芸能プロダクションから声のかかったことも何度かあったがすべて断り、旅行から帰ったら外資系の会社に就職する。得意げに話しているわけではない。



食事のあと四人で上部デッキにいった。洋上は暗くなっている。皆で欄干に身を乗り出してはしゃいだ。デッキランプが、係船機器、救命艇、錨といった艤装品を照らしている。ちょっとしたステージのようにもみえなくもない。 

「あっ、笛だ」

「上海でコンサートをやるんだって。さっき、おばさんたちと話しているのを訊いたんだ」 彩乃の言葉に明が答えた。闇の中に点々と光がみえる。それがいくつも連なっていた。「港町の明かりかなあ」

「違うわ。動いている」 

「船団だ。何隻いるんだろう」 

みんなで数えてみた。三十隻はいる。その列が点となって街明かりのようにみえるのだ。笛を吹いている人は長髪で口髭をはやした背の高い男性で、いかにも音楽家という風貌をしていた。笛の音は和風の旋律でその夜に似合っていた。



航海二日目――

「レストラン」の朝食では、中華風の朝粥か洋風のメニューが選べた。僕は、トースト、ベーコン・サラダにミルクのセットにして席に着くと、昨夜デッキで笛を吹いていた音楽家と相席になった。音楽家は長身で細面、口髭を生やしている。 

「へえ、先生は韓国の方だったんですか?」

「日本生まれだよ。だから国籍は日本にしてある。女房も日本人だしね」 

音楽家は淡々と話しをした。けっこうものを知っている。中国の古い寺院の話しをしてみた。

「残念ながら、文化大革命でほとんど壊されてしまったよ。北京を除けば南方の国境地帯にはまだ古い建物が残っている。時間があったら訪ねてみたらいい」

さらに話しが昨日友達になった、明や伸一、それに彩乃の話題になった。

「あの女の子、名前はなんていうの」 

「彩乃さんです」

「綺麗な娘さんだね、口説いた?」

音楽家はふざける様子でもなく淡々としていおり、かえって僕を困惑させた。

「女の子だってセックスしてもらいたいんだ。気があるのなら、ちゃんと口説いてやりなさい。生物としての雄のマナーだよ」

「マナーです、か……。高嶺の花です。僕なんかじゃなく、
ちゃんとした人と結婚するべきですよ」

「はあっ、結婚。何でそうなっちゃうの?」

音楽家は首をかしげ、真顔で恋太郎の顔をのぞき込んだ。それからおもむろに、腰のポシェットから小さなトマトを二つとりだし、僕に一つを渡した。

「女房がつくってくれたんだ。甘くて美味しいよ」

僕は口髭の音楽家からもらったトマトをデザートにする。かぶりついた途端に、しぶきが飛んで白いシャツの胸のところを汚してしまった。
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