伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第23回/方舟のファイサル(謎の男ファイサルとは?)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

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第23回/方舟のファイサル(謎の男ファイサルとは?)

食堂がデッキに臨んだところにある。そこから外に出ると海に臨んだ通路になっていた。僕は欄干にもたれて、お気に入りの詩集を開く。アメリカの詩人ジョン・バース作、『酔いどれ草の仲買人』。それを音読した。何度読み返したことだろう。不思議なことに音読することで『傷』が癒されていくようにも感じられた。

バースの詩は人を惹きつける。「魂の共鳴」というのか、雨の日に雫が誘われてきたように、沈む太陽を横顔に受けて、白シャツに紐ネクタイをした老紳士が声をかけてきた。流暢な日本語だ。

「綺麗な声だね。ご婦人の朗読もいいが、君のような若者のもなかなかいいものだ」

その人は中国人で夏陽と名乗った。中国では紳士のことを「大人」と呼ぶ。僕は何人かそういう「大人」に出会ったのだが、夏先生もその一人だった。なんとなく雰囲気はランプ先生やポモリ教授に似ている。夏先生は僕が気に入ったようだ。

「田村涼介君か。若者らしい爽やかな名前だ。よかったら、私の部屋に来ないかね? お茶をご馳走するよ」

特等室は食堂に近いフロアに並んでいたと記憶している。白いドアで、刺繍を模したかのような金刻がなされている。内装も白が基調で、寝室には、ダブルベッド、デスクセット、リビングセットが置かれている。壁際にはバスルームと化粧室の扉。窓からはオレンジ色になった海原が望めた。

テーブルの上には描きかけの水墨画があった。からみあう二匹の蛇だ。干支が蛇であったので、ちなんだものだろうか。

「それは?」

伏儀と女禍。歴史書『史記』の冒頭に登場する聖天子の兄と妹。洪水で二人だけとなってやむを得ず夫婦になる中国版アダムとイブ。女禍は粘土をこねて人間を造りだした。雌雄二匹の蛇が織りなす構図は、DNAモデルに酷似している。「螺旋」。そう、ここにも「渦巻」があった。

「夏先生は絵を嗜まれるのですね。僕も描きます。鉛筆デッサンと洋水彩ばかりですけれど……」

「ほう、それは奇遇。ぜひみたいものだ」

一度、大部屋に戻って、リュックからスケッチブックを取ってくる。その間に、先生はテーブルの上の画材一式をデスクに移し、代わりに、服務員を呼んで、ドライフルーツを入れた籠と茶器セットを準備させていた。プーアール茶だ。

スケッチブックを開くと夏先生は目を細めた。

「アンモナイトか。伏義と女禍が織りなす螺旋に通ずるものがある。生命の始まりと終わりとを意味するようで面白い」

夏先生は、僕の絵をひとしきり褒めてから、身の上話をした。

「帰化したパラグアイという国は海に面していない。けれども大河が大西洋に注いでいる。パラグアイ川・パラナ川といった支流を含むラプラタ川水系だ。欠点は川底が浅いことで小さな船しか往来できないことだ。だが川ざらいしたらどうか? タンカーのような大型船舶の往来が可能になる。大きな港を築けばこの国はもっと豊かになるに違いない。私の夢はラプラタ川を大運河にすることだ」

夏先生は横浜中華街で生まれた。奥さんは日本人だ。若いときに南米のパラグアイ共和国に渡って農園を開いた。現地ではスペイン系やドイツ系といった欧州系植民者の社会地位が高い。先生は、中国系や日系といったアジア系植民者を糾合し、地位向上のため、中国・日本といった東アジア諸国政府に資金援助を請願して回っている。「ラプラタ川大運河化計画」はその一環だ。飛行機は苦手で、船舶・鉄道をなるべく利用しているとも話していた

夕食の時間になったので、退室しようとすると、先生は、「帰る前に、手品をご披露しよう」といって引き止めた。

白い壁に収まったクローゼットの扉。中にはトランクが置いてあり、夏先生は布袋を取り出した。縫いぐるみの「目」ばかりが入っていて、卓上にばら撒いて適当に掻きまぜだした。するとどうだろう。大観して「目」の形になったではないか。

「不思議だろ? 特にトリックはしていない。『神のみえざる手』が働いている。一見混沌とした大小無数の宇宙は、こんなふうに『連鎖』し、秩序があるんだよ」

僕は狐につままれたような感覚に襲われた。
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