伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第21回/方舟のファイサル(謎の男ファイサルとは?)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

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第21回/方舟のファイサル(謎の男ファイサルとは?)



   第三章 方舟のファイサル


五月に休学届けを出していた。正確にいえば壊れていた僕に代わって母が郵送で手配してくれたわけだが……。

症状が改善したのは梅雨が明けた七月になってからだった。同月、大学近くにある同期生赤城のアパートを訪ねてみた。赤城が、「八王子城をみに行こう」といい出した。赤城は、僕の分の自転車は、ひいきにしていた喫茶店
「めらんこりい」のマダムから借りた。

キャンパスは多摩ニュータウンの外れにある。前を西に向かって走る道路「野猿街道」をたどっていくと八王子の市街地に至るのだが、直前に難所があった。多摩丘陵が遮っているのだ。

やたらと長い上り坂がうねっていて、僕らは、へばりながら、乗ったり降りたりを繰り返し、どうにか頂きにたどり着いた。研修施設である大学セミナーハウスにいく岐路になっているところに「野猿峠」と書かれた交差点があり、八王子の市街地を眺望することができた。

「道の終わりが市街地の中にある甲州街道。後ろの山ん中にあるのが、四百年前の戦国武将北条氏照が築いた八王子城。豊臣秀吉に逆らった北条一門は、この城を落とされたことで無条件降伏となったんだ」

赤城が指差した先に森に隠されている城跡がある。
「なあ、涼介。何もこんなときに中国に行かなくたっていいだろ。家族だって反対してなかったか? 莫迦じゃないか?」

「莫迦だよ」

いい返すと赤城は苦笑していた。

確かに反対意見もあった。だが家族は壊れていた僕を知っている。主治医が、「多少のリスクはあっても、風にさらすことで『傷」が早く癒えると思いますよ』という助言もあって、すんなりと思いは遂げられることになったのだ。

   ☆

物語の時代、一九八九年の六月四日に天安門事件が起こっている。北京において民主化をもとめる学生が天安門広場で集会を開いていたら、軍部が鎮圧にでて、戦車をつかい、テントで野営していた学生達を、テントごとひき殺したあの忌まわしい事件。ほかの都市にも飛び火して、上海でも暴徒化した市民がバスを焼いたりしている。

七月に入ると中国も、だいぶ落ち着きを取り戻していたと訊いていたが、外国人たちはまだ渡航を控えていた。

僕が中国渡航にこだわるのには理由があった。

一九二〇年代初頭、中国河南省仰韶村の発掘調査により、六千年前の壺が出土した。釉をかけない高さ二十五セン前後の品で、彩陶という原始的な陶器だった。発見者であるスェーデンの考古学者の名をとって、アンダーソン土器とも呼ばれている。壺の肩から胴には、「渦巻き文」と発展型である「S字文」が施されている。

どうしても実物がみたかった。絵を学ぶきっかけとなった「装飾横穴墓」の渦巻き文。源流であろう中国の古い土器の文様に魅せられていた。恋人の雫がストーカーに殺された喪失感はそこで満たされるのではなかろうかという幻想があり、たとえ戦車に引かれ生命を落としても、実物を一度でもみることができれば本望だとさえ考えていたのだ。

  ☆

街道の両側は新緑の木々になっている。赤城が、「いくぞ」といって先に自転車のペダルを漕ぎだす。僕は続いて市街地に向かう長い坂道を駆け下りていった。ブレーキは駆けない。若さゆえの無謀さ。目の前に広がる夏空は水色だった。

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