伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第16回/方舟のファイサル
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

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第16回/方舟のファイサル

三月――

彼岸になる少し前のことだ。後期試験が終わり僕は雫に、「鎌倉に行こうか?」と切りだした。いつものことながら雫は、嬉しそうに、カーデガンにワンピースの装いで、小旅行につきあった。

小田急藤沢駅から、三両編成の江ノ電列車に乗りかえた。古ぼけた住宅街の垣根に割り込み、アスファルト道路を自家用車と並んで走行する。路線半ばあたりで、江ノ島がみえてきた。涼介が雫にいった。

「江ノ島ってどんなところだろう? ちょっとのぞいてみない?」

「鎌倉にいくんじゃなかったの?」

「予定変更」

「男心と春の空ね」

雫が笑う。



湘南江の島駅駅を降りて、南流する境川左岸に沿って道なりに海岸へ向かう。海岸の東西を縦断する国道一三四号線をまたぐあたりで、河の向こうをみると小田急線片瀬江ノ島駅、片瀬魚港があり、前をみると陸橋県道三〇五号線が、江ノ島に続いている。話しをしながら陸橋を渡ると湘南港の埠頭に至った。港からヨットが出ていく。

港をみてから、江島神社辺津宮、泰安殿、中津宮、江ノ島大師、奥ツ宮を巡って、島の北側にある市街地に戻る。市街地の外縁は磯になっていた。

「島のどこかに、弁財天が祭られた洞があるって訊いたことがある。弁財天は女神様だったよね」

ところが後にいる雫に話しかけたのだが返事がない。血相をかえて戻っていこうとすると、岩場に隠れていた彼女が、笑って僕を呼んだ。岩の隙間に落ちたか、波にさらわれたかと思った。悪い冗談だ。叱ったのだけれども、その人は上機嫌だった。

  ☆

それから江の電で鎌倉に向かう。海岸から北上して八幡宮に至る大通り、途中にある鎌倉駅から少し西を併走する小道に、学生でも入れる値段の料理を出す瀟洒な店があった。電球の放つ光が壁をオレンジ色にしていた。それ以外の内装は黒を基調だ。

僕は気づきもしなかったのだけれども、雫は、途中でガイドブックを買って調べてみつけていた。「思い出横丁」の一件以来、連れ出すのは僕で、洒落た店をみつけるのは雫、役割は決まってしまった。吐く息を白くする季節、鎌倉でのデートを二人はそうして楽しんだものだ。

通りにある店は、どれも似通っており、目立たない二階建ての小さな店だ。一階だけが店舗で、調理場とカウンターがある。ピロシキと飲み物以外はメニューにない。名物のそれと珈琲とを注文して夕食にした。時計をみれば五時過ぎだ。店を出てから帰りの電車に乗った。どんな話をしたのだろうか。思い出せない。ただ雫が目を細めて笑っているところだけが脳裏に焼き付いている。
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theme : 自作小説(ファンタジー)
genre : 小説・文学

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