伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第6回/方舟のファイサル
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第6回/方舟のファイサル

今でこそそんなふうにはいわれないけれども、級友に、週末のデートはどこに行くのだと訊かれたときに、町田に行くと答えようものなら、「ダサい」というあざけりが返ってきたものだ。

僕は小田急線沿線にある小さな町々が好きだった。都心からはるか西に離れた東京町田もその一つだ。夏の町田は、青々とした田園の中に、硝子張りのビルがひょこりと生えるように立っていて、まるで南の島のようにさえみえ、市街地を貫くように電車が走っていた。

雫は、僕が行きたいというところには、必ず付き合ってくれた。通りの風景を並んで歩くだけでも喜んでいたものだった。初めてのデートをしたのは、僕がお気に入りにしていた町田だった。

駅から道路をまたいだ市街地に行くには、SF映画ばりにモダンな立体歩道橋を渡る。そこを降りると、案外と古びた町屋が軒を連ねていた。三階建てのビルの一つに民族楽器店というのがあって、ビルマの竪琴、土器壺に革を貼った南米の太鼓なんかがある。

「何かプレゼントするよ」

僕がいうと、雫は大げさに喜んで、手に載るほどの大きさの弦楽器を指さした。瓢箪の底を切り取って丸い穴を穿った底板を貼りつけ、金属製の弦を配置している。弦は細く長く複数あって、まるで魚の骨のようだ。けっして高価なものではない。

「一種のピアノね」

「瓢箪ピアノ?」

二人で笑った。



また少し歩く。すると、昭和初期に建てられたものであろうか、古い町屋とこじんまりした庭を利用した喫茶店があった。庭には、深緑のパラソルが三つ並んでいて、席の一つに腰かけた。

雫は箱を開けて、早速、奏で始めた。

「いい曲だね? なんていう曲?」

「『韃靼人の踊り』っていうの。ねえ、ちょっとハミングしてくれる?」

後に連れ立った若い女性客がやってきて、ちょっと照れくさい。雫が演奏しながらハミングするので、恋太郎も合わせた。梅雨は明けたばかりで、少し霞みがかってはいるが、天気がいい。

演奏が終わってから雫がいった。

「小さいころからピアノを弾くのが好きで、帰省すると、レッスンを受けていたの。講師の先生とはそのころからのお付き合いよ。こないだ、先生から、『軽井沢でコンサートがあるから参加してみない?』ってお誘いがあったの。調整のために教室に行くと先生はこんなふうにおっしゃっていたわ」

店員がティーカップを運んできたので僕は口にした。雫は話を続けた。

「先生は、『情感が今一つだわ。貴女、モネの絵を観るといいわよ』ってアドバイスして下さったのだけれど、意味が今一つ意味が判らないのよ」

(ああ、あれか――)

ランプ先生について子供のころから絵をかじっている僕には、ピアノ講師がいう意味をなんとなく理解することができた。コンサートまでまだ間がある。

「じゃあ明日、モネをみに行こう」

翌日僕らは上野に出かけた。
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genre : 小説・文学

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