伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第2回/方舟のファイサル
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第2回/方舟のファイサル

ここで僕が上京する前のことについて少し触れておくことにする。

横穴墓というのがある。中国唐王朝のときに山の崖に横穴を掘って墓室とする風習が起こって、日本に伝わり一時流行った。七世紀あたりのことだ。横穴墓のうち装飾横穴というのがある。九州と東北南部海岸付近に存在する。間の瀬戸内・畿内・東海・南関東といった地域には存在しない。玄室には、抽象化した太陽や山、人物・鳥・舟なんかが描かれている。

県道の建設工事のとき、崖を削ったところ、そういう装飾横穴がでてきた。両親が興味があって、幼い僕は連れられ見学した。太陽を現したと考えられる渦巻紋様。そいつが強烈なインパクトを与えた。



実家は比較的裕福だった。そのため望めさえすれば、習い事をすることについて、すべてかえることができた。学習塾、ピアノ、剣道、そして絵画。長続きして今に至っているのは絵画だけだ。絵を習うきっかけは、母が文化ホールの市民教室で絵を学んでいたとき、車に乗せた小学一年生の僕を同伴したことに始まる。

プラネタリュウムを最上階に備えた五階建ての白いビル。そこの三階あたりだったと思う。白い部屋、灰色の床。低い天井に設置された照明は無機質な白色光を放っている。イーゼルが並んでいた。

二十名ばかりいただろうか。大人たちは静物デッサンを描いたり、旅行先で撮った写真をもとに風景画を描いたりしている。少年はといえば、ホールのあるビル周辺市街地をスケッチブックに描き、妄想を働かせて、廃墟のように描き、年老いた講師の目にとまった。

「面白い子だ。きっと伸びる。今度うちに遊びにおいでよ」

以来、休みの日になると一人でバスに乗って講師である画家の家にデッサンを学びに行くようになった。他に弟子はいないので個人授業である。油絵具臭い離れのアトリエには大きなランプがあったので、この人をランプ先生と呼ぶとしよう。小学から高校にかけて僕は先生のところに通った。

毎回、大きなスケッチブックに、洋酒の瓶、果物、花、ボール、皿といった静物を4B鉛筆や木炭で濃淡をつけてていく。片腕を伸ばし、鉛筆を物差しにして、一・二倍にするとスケッチブックいっぱいに描けた。

「涼介君、道を歩くときはね、周りの風景で暗くなっている順番を捜すといい。そうすることで頭の中で絶えず絵を描くんだ」

中学生のとき、スケッチに行こうと誘われた。出かける前に、先生のアトリエで予習をする。

「宇宙には計算されつくした秩序がある。宇宙のかけらである地球もそうだ。自然界のあらゆるものには法則がある。絵だってそうだ。例えばごらん――」
先生は、新聞紙の上にスケッチブックを置いた。木炭の線は、左側の新聞紙から、画面の真ん中を横切って、右側に抜けた。

「これが水平線『アイレベル』だよ。スケッチブックから新聞紙にはみ出した両側から、それぞれ測定線を伸ばし、手間でクロスさせる。それに沿って四角形を描く。ビルの土台だな。土台の角から垂直線を描き天井をつければビルは完成する。二点透視図法ってやつだ」

僕は真似て描いた。先生は講義を続けた。

「次は光の当て方だ。水平線『アイレベル』に直行するように、縦線を引く。水平線の上が太陽である『照点』、下が太陽の真下になる『位置点』だ。太陽の点『照点』から測定線をビルの天井角に延ばす。次に『位置点』からビルの底の角に測定線を延ばす。クロスするところができるだろう。それが影なんだ」

先生は、遠近法で描く画面の中で、等間隔に並ぶ電柱の描き方。山に当たる光の描き方。同色の絵の具で影の濃淡を描き、後で色をつけて行くグリセイユ技法、カマセイユ技法なんかも教えてくれた。
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genre : 小説・文学

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