伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 アンモナイト/恋太郎白書156(掌編)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

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アンモナイト/恋太郎白書156(掌編)


昔、恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は指をさして恋太郎と呼んだ。花や紅葉が、はらはら、と漂う、そんな若者だった。


 掌編恋愛小説群
恋太郎白書
 第156回 アンモナイト

螺旋。それは銀河の形だ。行き着く果てには中心太陽があるのだという。億千万の星々は、何十億年とかけて、砂時計の粒のようにそこに降り注ぎ、やがて静かに眠りにつく、宇宙という暖かな海原に彷徨う夢をみながら。



国鉄磐越東線は、太平洋側の平駅と内陸にある郡山を結ぶ鉄道路線だ。電化されていない。客車はセピア色で、ディーゼル機関車に牽引され、渓谷に開けた町々を往来していた。路線の途中にある小野駅で下りる。単線レールがホームのところだけ複線になっていた。木造平屋のひなびた駅舎改札で切符を駅員に渡す。何もない町だ。唯一といっていい産業は特産品はセメントで、山を削って採取する石灰石でつくる。

阿武隈山地は、東北の南端を東西に走っている。その昔、温かな海であったところが隆起したところだという。準平原とも呼ばれ、長い年月からなる浸食により、なだらかな山並みが続いている。

山の中は落葉広葉樹の深い森が続いている。奥深く先のみ通せないブナの森は、珊瑚であったのだろう。断崖を削ると化石である石灰岩を見出すことができる。そこを密やかに地下水が、トンネル状の川をなして流れ、天井の雫が何万年かの時間をかけて鍾乳石をつくりだす。

高校一年の夏休みだ。愛矢は、自分だけが知っているという化石がみつかる場所に恋太郎を案内した。駅から森に向かう。野鳥の声よりも蝉のほうがけたたましい。夏井川の上流で白濁した川を横切り、渓谷を遡って奥へ奥へと分け入る。木漏れ日が射す堪りとなった場所があった。岩魚が数匹泳いでいるのがみえた。二人は、岩縁に座ってリュックから握り飯と水筒を引っ張り出して昼食をとった。

「化石は?」

「あそこだ」

愛矢が指さした先は、剥げた砂岩の岩肌だ。礫が谷間に向かって落ちていた。握り飯を腹に収める。斜面をよじ登った二人はピッケルで、転がっている礫を割ってみた。鮫の歯と掌に載るほどの大きさをした巻貝のような化石があった。

「アンモナイトは、どれだけ眠っていたんだろう?」

「恐竜は、六千五百万年前に絶滅した。小惑星が落ちたからだって説があるよな。そのとき道連れになったらしい」

オウム貝に酷似した螺旋を描く化石。恋太郎は手にしたアンモナイトをみつめていた。



小惑星が海に落ちる。塵と水蒸気が成層圏に舞い上がって暗黒となり地球が冷える。地球は凍てつき、森の木々が枯れて、恐竜たちがばたばた死んでいく。水中では珊瑚も枯れ、イカやタコ、三葉虫なんかとともに泳いでいたアンモナイトも海底で眠りについていった。



恋太郎は、拳骨を食らって、われに返った。

「痛いっ。何するんだ!」

「恋太郎。麻胡先生の写真がポケットにあるな。六千五百万年、眠るのも悪くないと思わなかったか?」

「思った」

「『こっちに』戻してやったんだ。感謝しろ」

「ありがとな」

春の遠足のとき、鍾乳石の町にきたことがある。悪友の愛矢は、キャノンの三十五ミリフィルムカメラをもっていた。麻胡先生が、恋太郎に話しかけているところを写真で隠し撮りして、後で焼き上がった写真を渡した。恋太郎は、それをプラスチックのファイルに入れて、いつも胸ポケットに忍ばせていた。

意識の半分はまだ夢の中にあった。恋太郎は、ブナの深い森を珊瑚に置き換え、枝葉の隙間にみえる空を海にみたてていた。螺旋の殻をもったアンモナイトは、頭をだして触手を揺らめかせ、イメージの底を泳いでいる。


【登場人物】

恋太郎/失恋の天才児。高校生。
愛矢/恋太郎の悪友。
麻胡先生/科学者。教師。後に宇宙飛行士となり、恋太郎と結婚する。
昴/上級生の女子生徒。

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引越しました。

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