伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 レース/恋太郎白書155(掌編)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

レース/恋太郎白書155(掌編)


昔、恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は指をさして恋太郎と呼んだ。花や紅葉が、はらはら、と漂う、そんな若者だった。


掌編恋愛小説群
恋太郎白書
第155回 レース


恋太郎の通う椿ヶ丘高校は文字通り丘の上にあった。校門からから校舎に至るまで百メートルばかりの坂道となり、途中には、くすんだ板張りの食品店があった。切妻となった入り口の屋根の上に、「恵比寿屋」と書かれた看板が掛けられている。峠の茶屋のようなもので、生徒たちは、下校時、ここの縁台に腰掛け、菓子を口にしてから駅に向かう者が少なからず居た。

悪友二人はときどきゲームをした。ブレーキをかけずに、一気に駆け下る度胸試しだ。二人の自転車はスポーツタイプのもので、坂道を下りるとき時速四十キロ近くなり、向かい風を受けるものだから余計に速く感じる。

恋太郎と愛矢が校舎からスタートして、校門まで下る途中にはカーブがある。ちょうど、「恵比寿屋」のあたりだ。外周の路面は少し痛んでいた。そこの歪に車輪をとられた愛矢が宙に投げ出されるのだが、転ぶことには熟練していた。学ランがこすれたのと、掌を擦りむくだけで事なきを得た。問題なのは荷台に積んだ教科書・ノート類で、紐が外れて散乱してしまった。

恋太郎が校門近くまで下りてから、自転車を門に立てかけ坂道を駆け上りだす。その間に、愛矢が教科書を拾い集めていると、茶屋の方から女子生徒が駆け寄ってきて、拾うのを手伝ってくれた。コーラを飲んでいた野次馬の男子どもは、「甘やかすな、癖になる」といって笑っていたが、女子生徒は意に介さない。かまわず続けた。ネームプレイトから上級生だと判る。

「俺、愛矢っていいます。一年十組です。ありがとうございます」

「私は昴《すばる》。二年三組よ」

ブレザーとスカート。平均的な女子身長であるのだが、当時流行りのポニテールと小麦色の肌が印象的だ。歯切れのいい口調をしている。恋太郎が駆けつけたとき、テキストは拾い集められ、愛矢が深々と一礼したところだった。昴先輩。この人との出会いは悪友どもの人生を変えることになる。

東北南端の町ゆえに桜の咲くのは四月十日前後だ。百メートル坂の両際は桜の木が植えられ、三分咲きになった。




【登場人物】
恋太郎/失恋の天才児。高校生。
愛矢/恋太郎の悪友。
麻胡先生/科学者。教師。後に宇宙飛行士となり、恋太郎と結婚する。
昴/上級生の女子生徒。

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genre : 小説・文学

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