伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 つくも髪/恋太郎白書152(掌編)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

つくも髪/恋太郎白書152(掌編)

昔、恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は指をさして恋太郎と呼んだ。花や紅葉が、はらはら、と漂う、そんな若者だった。


掌編恋愛小説群
恋太郎白書
第152回 つくも髪


四十人弱が収まった教室である。鉄筋コンクリート三階建ての校舎の二階で、東を向いたベランダからは海が望める。

昼食の後で、生徒たちは眠くなりかけている。最後尾の席に座る恋太郎や愛矢も教科書をみているうちに舟を漕ぎ出した。

古典の授業だった。担当しているのは公家先生とあだ名されている男性教師だ。細身で黒いスーツを着た人で、丸縁眼鏡をかけている。定年近い教師は心得たもので怒鳴ったりはしない。

「古典というのは、決して高尚なものばかりではなく、けっこうエッチだったり、ギャグなんかもあるのですよ。日本史上最高の美男子とされるのは在原業平という平安貴族です。日本中の女の子をナンパして回る平安貴族。ただこの業平卿は、仏様のような慈悲深い人でした。なんと、百歳近い老婆とエッチしてしまいます」

「!」

男女を問わず生徒たちは、兎が耳を立てるかのように反応した。



昔、老いて床に伏していた女性がいた。

(死ぬ前に、日本一の美男子とエッチがしたいなあ)

そう願っていた。長男坊と次男坊が見舞いに来たとき、話をしたのだけれども相手にしない。ところが三男坊が枕元に座ると母の言葉を訊いた。末っ子は真面目だった。

「絶世の美男子にして、おっか様と共寝して下さる方といったら業平卿をおいて他にはいない」

そう決め込んで、高貴なその方の屋敷に素っ飛んで行く。業平卿は老婆の息子が涙ながらに事情を訴えるので、「判りました」といって、スケジュールの空きを伝え、老婆の家に出向いた。

当日、通りの向こうから牛車が近づいてくる。藁葺屋根をした庶民の屋敷の門に停まろうとするとき、篠竹を束ねた垣根からぴょんぴょん飛び跳ねる顔があった。老婆は、嬉しさのあまり、病床から飛び起きて元気になってしまったのだ。



教室は大爆笑となる。公家先生は、文庫本サイズの書籍を片手に持って、並んだ机の間を歩きながら原文を朗読を始めた。

『伊勢物語』第六十三段の『つくも髪』。つくもというのは、漢字で書くと数字の九十九に当たります。百にもなる人の髪ということです」

定期試験の季節になると、生徒たちの古典の平均点は、他の科目を大きく引き離す。



授業の後の休憩時間。恋太郎と愛矢は校舎の屋上に行き、フェンスに並んでもたれた。

「お婆さんが若いころ、片思いの人がいたんだ。二人は思い合っていたのだけれど、相手が戦争に行って帰って来なかった。年をとって判断がつかなくなり、面影の似ている若い男が来ると、ふらふら湯殿にやってくる」

「マタギ温泉の『お色気婆さん』のことか? また妄想してたんだな、恋太郎?」

「悪いか?」

「いや、そこがいい」

鶯が鳴いている。翼を広げた鳥のように、阿武隈山地から張り出した山塊が海に突出し、平地を囲っているのが望める。水平線のあたりを大型船が航行していた。




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