伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 マタギ温泉/恋太郎白書151(掌編集)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

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マタギ温泉/恋太郎白書151(掌編集)


昔、恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は指をさして恋太郎と呼んだ。花や紅葉が、はらはら、と漂う、そんな若者だった。

掌編恋愛小説群
恋太郎白書
第151回 マタギ温泉


阿武隈山地から舌状に飛び出した山塊が海まで張り出して、屏風のように平地を仕切っている。陸奥の南端はそういう地形だ。磐城《いわき》地方という。その真ん中あたりに恋太郎の家があった。昔日ではありふれた百姓屋敷だ。小川を隔てた北岸が、集落の外れで、三方を尾根で囲った広大な敷地を持ったもった名刹阿弥陀寺がある。その東縁に、どういうわけだかひっそりと共存している旧教教会があった。どこにでもある住宅に十字架をのせただけのもの。愛矢の家はそこだった。

梅の花が咲くころだ。悪友二人は自転車を並べ、小川に沿った道を、西に向かった。五室をもって一棟の平屋を成した木造の炭鉱長屋が並んでいる。ギアチエンジする。大八車で坂道を上るとき、踏ん張るため、「へっぴり坂」と呼ばれる坂道だ。途中、町工場、川の崖をくり抜いて菩薩を彫った祠を横目にみて走って行く。踏切を渡る。線路は、石炭積み出し列車のものだ。八百屋、髪結い屋、キャバレー、パチンコ屋、本屋、映画館。交番、消防署、病院、小学校。谷合に開けたところに小さな陥落街ある。それから北に線路、南に川。その合間が道となって西へ続く。上水道、滝。この辺から山林となって、さらに奥へ進むと、視界が、急に開けて緩やかな棚田の延びる隠れ里のようなところに出る。

二人が自転車を停めたところは、江戸時代に始まるという藁ぶき屋根の旅館があった。秘湯というのはまさにこんな旅館をいうのだろう。張り出した玄関の屋根には、マタギ温泉という看板が掲げてあった。重たい玄関を開けると、番台には大きなソロバンを持った婆様がいた。

「あんちゃんたち。温泉の曰くを教えてやるよ」

咳払いをしてすました顔になる。

「鷹狩の好きな地元藩主の内藤侯が、猟師を伴って山にはいたところ、偶然この地をみつけて湯屋を作った。土台を作るのに、木を寝かせたため、連れの猟師がまたいで、湯船に浸かった。これをみた内藤侯は、面白がって、「マタギ」と呼んだ。故に猟師はマタギと呼ばれるんじゃ」

(長い。しかもいい加減なコジツケ話……)

恋太郎と愛矢が顔を見合わせる。

湯殿は混浴で、剥き出しになった梁があり、杉の一枚板を組み合わせてこしらえた四角い湯船が真ん中に置かれてある。それは造り替えて間もないようで、そこばかりが白くなまめかしい。

二人が身体を洗っていると、番台にいた婆様が、全裸になって入って来た。あばら骨に皮一枚を載せた胸には、へちまタワシのような乳房が垂れている。猫背。とても小さい背丈だ。

「背中あ流してやるよ」

「いいよ、そこまでサービスせんとも」

タオルで前を隠した愛矢が苦笑した。婆様がなおもいうのだが、「俺たち、年頃だから、照れちゃうんだよ、そういうの」といって、なんとか断る。

若旦那がやってきて、「婆ちゃん、お客さんが逃げるぞ」といって叱るので、老婆は桶をとって自ら湯をかけ、若旦那と一緒に退場した。

すれ違いに入ってきた湯治客が笑っていった。

「お色気婆様っていってな。ここの名物なんだ。客といったら、俺みていな爺ばっかりだからな。あんちゃんたちみてぇえな若え客が来るとよ。ああやってしゃしゃり出てくる。がはは」

恋太郎と愛矢は黙って湯につかった。

帰るときもあまり話をせずにペダルをこいだ。

谷川では鶯が盛んに鳴いていた。

(次回後日談あり)
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