伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 冬のプールサイド/恋太郎白書150(掌編小説群)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

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冬のプールサイド/恋太郎白書150(掌編小説群)

昔、恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は指をさして恋太郎と呼んだ。花や紅葉が、はらはら、と漂う、そんな若者だった。

掌編恋愛小説群
恋太郎白書
第150回 冬のプールサイド


アーチを描いた屋根は、高さ三十メートルはあるだろう。温水を蓄えた五十メートルプールをすっぽり覆っている。ヤシの木が随所に植えられている。ショータイムになると、太鼓に合わせて、丸太小屋をあしらった舞台の裏から、十名近ほどの乙女たちが、南国風の踊りを始める。花冠、花の胸飾り、緑の腰蓑。そういう温泉施設があった。

ショータイムになると込み合っていた長い滑り台ががら空きになる。恋太郎は、愛矢と連れ立って、舞台から数十メートル奥にある鉄製の螺旋階段を昇っていた。

高校は冬休みだ。恋太郎は標準よりも背丈がある。愛矢は、数センチ背が高く、胸のところに小さな十字架が垂れ下がっていた。二人とも半ズボンのような紺色の水着を身に着けている。

「愛矢、てっぺんから下まで何メートルあるんだろうな? 五十メートル?」

「人間の感覚っていい加減だろ。二十メートルでもけっこう高いと思う」

頂きには監視員がいた。縁なし帽を被った赤いアロハシャツの若い男だ。滑り口は足洗い場のような小さな水槽があり、ちょろちょろと、湯が流れている。

監視員の指示で愛矢がまず台から滑り降りる。十秒ほど間を置いて恋太郎の番になった。透明な屋根がある滑り台で、回転落下するように下に向かう。滑り台は、ところどころ勾配が緩やかになって、速度が調整されるのだが、加速すると思わす絶叫してしまう。下に近づいたとき、プールサイドで、ビキニの女性をみつけた。腰まである特徴的な長い髪。いつもはぼんやりしているのに、こういうときばかりは目ざとい。

(麻胡先生!)

小さい子供が、よちよち、とついてくる。少し年上の男が横にいて親しげに話しているようだ。

滑り台の向きは頻繁に変わる。恋太郎は先生を見失った。

(まさか、先生の? 実は結婚していた? 子供が? いや、独身って話だったよな。いや、僕は先生の家庭がどんなだか知らない。えっ、あっ、まさか。ショックだ!)

温水を滑る時間が長い。

滑り台の終点は、クッションとなる五メートル弱のプールだ。幅三メートル前後のロールマットが向う岸の壁についてはいたが、そこにぶつけられる前に水圧で停止した。愛矢が梯子からプールサイドに昇りかけている。麻胡先生がみつけて声をかけた。恋太郎が後を追った。

「兄よ。東京から帰省したの」

浮き輪を持った童女を抱いた先生がいった。三歳くらいだろうか。その子と同じピンク色のビキニで、恋太郎の目の行き場は、腕に抱かれた童女の背中あたりとなった。

よくある話だ。

麻胡先生の家族と別れ、恋太郎と愛矢は、舞台に向かった。ショーは終盤を迎え、火の棒をのけ反った男がくぐって行くところだ。昼、客がまばらになったそこの椅子に座り、屋台で買ったホットドックを食べる。クッションのない木製の長椅子だ。ニスが天井硝子を通してきた陽射しで光っている。

「よかったな、恋太郎」

「何が?」

「いや、何でもない」

「そうか――」

ホットドックには辛子とケチャップがストライプをなしていた。基本的に甘いのだが、辛くもあり酸っぱくもある。

麻胡先生が、五十メートル・プールを、クロールで何回かターンしているのを目で追った。水面までの段差が五十センチ、水深は百三十センチというところだろうか。プールサイドはコンクリートを白くペイントしたもので、舞台との間には、蛇行した紅い通路があり、南洋の樹木が植えられている。ほのかに、ここの温泉の特徴をなす硫黄臭が漂っていた。

兄と紹介された若い父親の腕に移った童女が、笑って先生に手を降っているのがみえた。

――別になし。

恋太郎の日記には昨日と同じ言葉が綴られた。
 

【登場人物】
恋太郎(れんたろう)/失恋の天才児。高校生。
愛矢(よしや)/恋太郎の悪友。
麻胡(まあこ)先生/化学教師。化学者。後に宇宙飛行士となり、恋太郎と結婚する運命の女性。

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