伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 除夜の鐘/恋太郎白書148・掌編
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

除夜の鐘/恋太郎白書148・掌編


昔、恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は指をさして恋太郎と呼んだ。花や紅葉が、はらはら、と漂う、そんな若者だった。

掌編恋愛小説群
恋太郎白書
第148回 除夜の鐘

魔女はいつの時代にもいるものらしい。

高校は冬休みになっていた。大晦日の午後、悪友の愛矢を誘って故郷を自転車で遠出する。

二人の住んでいる地域から二十キロ北に行ったところに小さな港町がある。後背は阿武隈山地がせり出した恰好になっている。奈良時代に開かれた寺は麓にあった。

ヘルメットを被り、ジャンパーを羽織った二人の少年は、自転車をくすんだ瓦葺の山門の軒先に停めた。額には恵日寺と記されていた。そこをくぐって伽藍を見渡すと、案外と建物は新しい。裏山はブナではなく檜と竹林となっている。伽藍の大半は大戦時における空襲で焼かれてしまったのだという。

「恋太郎、五月姫って知ってるか?」

「知らん」

「平将門の娘だ」

「そういえば日本史の授業で習ったな」

「将門は平安時代の武将だ。そのころの日本は貴族たちの時代だった。五月姫の父親は、旧弊に苦しむ民衆の難儀を救おうとして反乱を起こし、一時、関東に独立王国を築く。新皇って自称したんだ」

「敗けたんだろ?」

「そういってしまったら身も蓋もない」

愛矢がヘルメットの隙間から頭を掻いた。

朝廷は、まだ落ちていなかった東国の下総に成田山新勝寺を築き、僧侶たちに呪詛をさせた。間髪を入れず、将門が農繁期に兵を返したところで、反乱軍に組しない東国の有力豪族たちに呼びかけ戦を仕掛けた。新勝寺の霊験のためか、朝廷側が放った流れ矢が、馬上にあったその人のこめかみを貫き、討ち死に至らせた。新勝寺の新は新皇である将門をさしている。

落ち延びた娘は父の仇を討とうと、貴船明神で丑の刻参りをする。祭られている荒神は呪詛に通じている。五月姫は荒神を宿して鬼神に転じ、朝廷に逆襲する。このため人は夜叉姫と呼ぶようになった。朝廷側により放たれたレタ刺客は大宅光圀という。陰陽師だ。光圀によって姫は呪殺されてしまう。

愛矢が続けた。

「『栄華物語』や『御伽草子』にその下りがあって、日本中に伝説が伝わっている。どれも姫が呪い殺されて死ぬものばかりだ。でも、ここの寺の伝説だけは違う。戦いの空しさを悟った姫が、人間らしさを取り戻して尼となり、地元の人たちに読み書きを教えたりして八十歳の大往生を遂げたっていうんだ」

「なるほど、姫の墓所が恵日寺っていうわけだな」

「そうだ」

「寺の縁起に詳しいな。クリスチャンのくせに」

「うるさい」

二人が掛け合いをしていると、髪の長い切れ長の女性が境内からやって来た。白いセーター、チェック柄の短いスカート、黒いタイツとブーツ。革のコートを羽織っていて、バックを肩にかけている。

「あれ、麻胡先生? 何でここに?」

恋太郎が素っ頓狂な声をあげた。

「高校の時の同級生が恵日寺の娘さんなのよ」

先生が笑った。



本堂に昇る階段に腰を降ろし、恋太郎は紙コップのをその人に渡した。熱い甘酒で満たされている。

「恋太郎君のは?」

「僕はいいです。先生に飲んで貰いたいんです」

「じゃあ、こういうのはどう?」

その人は一口含むと、紙コップを横に置いて、恋太郎に
上体をのしかけ、唇を重ねた。

「そ、そんな……」

恋太郎は目を白黒させた。それから目を閉じ喉を鳴らす。下敷きになった高校生の顔は先生の膨らんだ胸に埋まり、両手はくびれたその人の背中に回され、やがて腰から腿へと滑らかな一条の線を描いて行く。コート、スカート、タイツに降りる。そこから逆走してスカートに……。外に行くか、内に潜るか、しばし両手が縁のあたりで宙を彷徨う。



鐘楼から鈍い音が響く。

刹那、先生が手にしていたバックが恋太郎のヘルメットを強打した。

「しまった。また読まれた。先生は魔女だった」

愛矢が十字を切った。

陽は沈んでいない。刻が百八に至るにはまだまだ遠い。


【登場人物】

恋太郎/失恋の天才児。
麻胡先生/高校時代の化学教師。化学者。宇宙飛行士となり、恋太郎と結婚する運命の女性。
愛矢/恋太郎の悪友。牧師の息子。

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