伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 ケーブルカー/(掌編集)恋太郎白書141
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

ケーブルカー/(掌編集)恋太郎白書141

昭和時代末短編恋愛小説群
恋太郎白書
第141回 ケーブルカー

昔、恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は指を差して恋太郎《れんたろう》と呼んだ。花や紅葉《もみじ》がはらはらと漂う、そんな若者であった。



紅葉の便りが報じられた。恋太郎は雫を誘って、小旅行に行こうと持ちかけた。

「どこに?」

学食のある校舎二階は、バルコニーのあるカフェになっていて、そこから高尾山が望めた。

いい加減なもので、恋太郎が、「高尾山へ行こう」というと、雫は、「いいわ」と答えた。毎度こんなふうに二人の旅は始まったものだ。



高尾山の標高は六百メートル弱。登山するには京王高尾線高尾山口駅で下車、清滝駅に向かい、ケーブルカーで、山の中腹にある高尾山駅に行き、そこから徒歩で山頂を目指すのだ。

清滝駅の改札口を抜けてホームに入った。

「私、ケーブルカーに乗るのは初めて」

「ここのケーブルカーは、ワイヤーの両端に、それぞれ車両を繋ぎ、一方を吊り上げると、もう一方が降りてくる方式。井戸の釣瓶のようだから『つるべ式』っていうんだって」

ホームは斜面になっていた。十五分待つと車両が下りてきたので二人は乗り込んだ。



ケーブルカーの車両内部の通路は、線路の勾配にあわせて階段になっていた。座席に二人は並んで座る。通路側に恋太郎、窓際には雫が座った。高尾山の山麓はまだ緑色をしていた。色づいているのは、けっこう上のほうだ。それでも恋太郎は満足だった。窓の外を眺める雫は絵になった。

車両の乗務員室は、ハンドルやら計器だのがあるが、運転手はそこにいない。駅の運転室で操縦しているのだ。そのことを雫に話すと、「じゃあ、あの人は?」と不思議そうに首をかしげる。前方の乗務員室にいるのは車掌だ。

三十度の急勾配を持った路線の始まりと終わりには二つのトンネルがあった。出発してすぐにあるのが洗心堂で、終点近くにあるのが有喜洞だ。恋太郎が、思いついたのは洗心堂で、実行したのが有喜洞だった。

終点に近づくと、少し山肌が色づいてきた。二つ目のトンネルで、恋太郎は、雫の名を呼んだ。その人が振り返る。軽く唇に触れた。時間が停まったように感じた。心臓が高鳴って、また時間が動き出した。

「もう――」

怒ってはいない。



高低差三百メートル弱、総延長一キロ。六分間の鉄道旅行だ。





シリーズでは追記的なエピソードです。

【登場人物】

恋太郎:東京郊外の大学に籍を置く学生。失恋の天才児。

雫:恋太郎の恋人。三年生のときに、昔の交際相手に刺殺される。
エピソードは、《雫編・巡礼編》にて。
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