伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 終章、桜の下の王子様/ハプスブルク戦記(全話完結)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

終章、桜の下の王子様/ハプスブルク戦記(全話完結)


ガスパーレはアムステルダムにあり引退後、悠々自適の余生を送っていた。ある日、珍客が訪ねてきた。白髪頭になった騎士ザナウとネッケだ。イタリア人傭兵は、バルコニーに椅子を置き、召使が運んできた珈琲を飲みながら昔話に花を咲かせた。 

ハプスブルク戦記
終章 桜の下の王子様


ネッケがやっかみ半分の皮肉をいった。

「ガスパーレ、姫様の護衛役というのは役得だったな」

「マルグリット様には心底惚れたね。わが人生を最高のものにした」

一四九三年、マクシミリアンは、父親が亡くなると後を襲って、神聖ローマ皇帝に即位した。九五年、子供たちにスペイン王室の王子・王女と結婚するように命じた。兄のフィリップは王女ファナと、妹マルグリットは王太子ファンだった。もしどちらかに何事かがあっても、スペインとの絆は残るというわけだ。

ガスパーレが続けた。

「二年後、マルグリット様が十八歳で嫁がれた。陸路はフランスに塞がれている。海路でスペインに渡り挙式した。ところが半年後、王太子が病死なされた」

ネッケがそこで、口を挟んだ。

「そういえば、フランスのシャルル八世の野郎、このころ、鴨居につまづいて頭を打って、お死んじまいやがったよな。誰も同情しちゃいない」

「イタリア遠征の失敗の責任から、暗殺されたって話もあるな」

マルグリットの話題に戻し、ガスパーレがカップを置いた。

「マルグリット様は、亡くした夫君を慕って泣き明かしていただけじゃない。実践政治学を学んでおられたんだ」

「実践政治学?」

ザナウが訊きかえした。

ガスパーレが目を遠くにやった。バルコニーからは運河が望め、横付けされた帆船から倉庫に、水夫たちが荷を運んでいるのがみえた。

「最高の教師がすぐ傍にいた。マルグリット様は、チャーミングなお方だろ。義母であらせられたイザベル女王陛下に大変可愛がられ、間近で、政治手法を学ぶことができた。陛下は、あの、コロンブスをして新大陸を発見された方。二年してから、兄君フィリップ様がおわすブルゴーニュに戻って、故郷の空気を吸われた」

ガスパーレが目を細めた。

「あれは、一五〇一年だった。マルグリット様は、父君の命を受けて、サボワ公フィリベルト二世に嫁いだ。ところがこの国は、大貴族バタールが実権を握り、重税を国民に貸して苦しめていたんだ。若くして苦労人だったマルグリット様は大変に胸を痛められた」

ザナウとネッケが腕を組んで、「そうだろうな」と盛んにうなづいた。

「そこでマルグリット様から相談を受けたんだ。バタールの不正を暴くから証拠を集めるようにとね」

ネッケが珈琲を飲み干したカップをサイドテーブルに置いた。

「それで、バタールと一味を国外追放処分にするという快挙をやってのけたってわけだな?」

「国民が喝采したのはいうまでもない。残念なことに、三番目の夫君のフィリベルト二世も短命で、三年そこらで病死なされた」

大柄なザナウが両拳を固く握った。

「毒殺か? 大方、フランスの嫌がらせだろう。兄君のフィリップ様もそうだった」

「かもしれん。それはともかくマルグリット様は、四度目の結婚を父君から命ぜられるのだが、拒否なさった。すると父君は、サボワでみせた政治的な手腕を買って、ブルゴーニュからネーデルランドと名を改めた祖国の総督に任じなさった。このころ兄君が他界しており、和子四人の養育も託された。姫様は、総督としても養母としても有能だった。ブルゴーニュからネーデルランドと名を改めた祖国、ご実家オーストリーが有利になるよう政治・外交で辣腕をふるわれた」

ザナウが豪快に笑った。

「いや、みんな、ちっちゃかった姫様を知っている。まさか、ここまでなるとは思っちゃいなかった。今じゃ甥っ子のカール様がスペイン王家を相続。神聖ローマ帝国皇帝の選挙では、姫様の後押しで当選できたようなものだ。陛下といえども、ネーデルランドには足を向けて寝ることが出来ないって話だよな」

皇帝マクシミリアン一世は、一五一九年に崩御していた。先に没していたマリー女公は、祖国の墓所で眠っている。遺言により、娘のマルグリット総督は、父の心臓を母の傍らに葬った。

騎士ザウアとネッケは、ガスパルの案内で、恩顧ある皇帝夫妻が眠る教会を詣でた。

春だった。霊廟には桜が植えられ花が咲いていた。



一九三〇年、マルグリットは五十歳で亡くなった。父親マクシミリアンがあれほど手を焼いたネーデルランドの施政において、反乱というものを一度も経験することがなかった。

だが、この時代について、「女傑の時代」などと無粋なものいいをする歴史家は一人もいない。「貴婦人による統治」と呼ぶ。



昔、丘の上のお城に可愛いお姫様が棲んでいました。おやつの時間、お姫様が片手に盛った桜ん坊を食べようとしたとき、一つが地面に転がり落ち泣いてしまいます。ところがどうでしょう。

転がり落ちた桜ん坊から芽が出て、お姫様が美しく成長したころ立派な木になり桜ん坊が実るようになったではありませんか。さらに何年かして桜の木に見慣れない馬がつながれていました。そうです、素敵な王子様が結婚を申し込みにきたのです。

(稿了)

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