伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 アンボワーズ城で待つ君に10/ハプスブルク戦記
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

アンボワーズ城で待つ君に10/ハプスブルク戦記


王子は息子を取り戻しました。魔法使いにさらわれた王女を取り戻すため、対決するときが来たのです。

ハプスブルク戦記
桜の下の王子様

第2章 アンボワーズ城で待つ君に

10

農耕文化黎明期、全世界的に巨石文化が発生した。ヨーロッパにおいては、 紀元前四千年ごろの支石墓が際立つ。棺の周囲を切り出した巨大岩石で囲い、さらに天井岩を上に載せたもので、フランス語でドルメンという。机のようにもみえる。

支石墓は、支配階層の墓だ。彼らは、千年にわたって彼の地を君臨した後に、忽然と姿を消した。それから、地面に穴を掘っただけの庶民的な墓坑群の時代へと移行し、墳墓を築くケルト人が侵入してくる。支石墓は、謎の民族が築いた文化だ。

ブリターニュは、痩せた国で小麦は育たないため蕎麦粉でパンを焼く。そんな土地柄だ。荒涼とした風景の中に、原始において栄華を誇った支配者たちの人支石墓が、多数、建ち並んでいた。



晴れてはいるが、肌寒い。

群れを成した支石墓の一つである。天井石の上に、眠らされたマルグリット王女が、仰向けに寝かさせていた。その下にある棺が埋まっているところに、花や果物が備えて祭壇にしていた。福音というべきか、唄というべきか、風が吹くとハミングのようにも訊こえる、とても長い呪文だ。

"Nos olim diis placet, excitare. Sum asking vos. Dabo tibi puellam. Ticks fui puellae brachium aufer cultro. Articulo pretium sanguinis puellae. Nunc bibat . Donec commodo viribus ad me……. "

黒衣の貴紳は、ブリターニュ公国占領のとき、レンヌ宮殿の書斎から抜き取った古い本を開き、そこの文字を読んでいたのだ。ラテン語にも似た響きだった。

コミーヌが指を鳴らす。するとどうだろう。中空にナイフが現れ、先端が眠らされた少女の手首に線を刻んで消えたではないか。滴った血が天井石を濡らしたとき、黒衣の貴紳は、下の祭壇に、先君ルイ十一世から形見として預かった金の鍵を放った。途端、環状を成した炎が上がった。地面が陥没し、棺が剥き出しになり、炎が人の形になってコミーヌの前に立った。

「コミーヌ!」

後ろに立っていたのは、生贄に興じられている娘の父親と、部下のイタリア人傭兵だった。

「無粋な。『門』を開けようとしていたところなのに――それにしても、何故ここが?」

「シャルル国王がザナウたちに教えた。卿がドルメンの中にある『門』を開ける祈祷書と鍵を捜していたということもな」

「ほう。シャルル王もお喋りなことだ」

「『門』 使い魔でも召喚するつもりだったのだな」

「使い魔? そんな下等精霊ならそのへんにいくらでもいる。ここは偉大なる支配種族が解脱した場所……」

マクシミリアンが叫んだ。

「昔、大地の全てを統べる神王国があった。種族の名はティタン。彼らは様々な家畜を使役していた。人間というのもその一つだ。千年の統治の後、悟りを得た彼らは、永遠の生命を得るため解脱し、異界に王国を移した」

「コミーヌ、お前は何者だ? 何故にマルグリットを生贄に選んだのだ?」

「船に乗り遅れたティタンというところです。輪廻を繰り返し、現世を彷徨うのには、そろそろ疲れました。マルグリット姫は少しばかりティタンの血を引いている。周囲を驚かすような賢さはその資質を受け継ぐから。そのような血は異界の造物主を酔わせる美酒……」

黒衣の貴紳が指を鳴らした。炎の人型が駆けだし来て、マクシミリアンに踊りかかかった。マクシミリアンが抜刀し二つに引き裂く。

「無駄だ!」

コミーヌがはにかむ。だが、銃声とともに、炎が砕け散って消えた。

「何だ、その弾は?」

ガスパルが、マスケット式の拳銃を撃ち込んだのだ。

「聖ニコラウスの聖骸がフランスに移されている。棺から聖水が湧き出ていてね、教会に金を積んで分けてもらった。そいつに浸していた鉛弾だ」

コミーヌが、胸の傷口に両手を添えた。信じられないという顔になった。やがて両膝を地面に落とすとそのまま突っ伏した。



マクシミリアンは、天井石の上に寝かされたマルグリットの手首にハンカチを巻いて止血し、ガスパルの手を借りて降ろした。それから、馬車のところまでマルグリットを両腕に抱えて行く。

途中、娘が目を覚ました。

「助けてくれたのですね。貴方様は?」

「最後に君に会ったのは二歳だった。迎えに来たんだ。君の父さんだよ」

丘を下ったところに馬車が待っていた。御者の席にはザナウとネッケがいた。マクシミリアンとガスパーレは、ザナウたち使節の随員に成りすまして、フランスに入国していたのだ。

「マルグリット!」

扉が開いて少年が飛び出してきた。ブルゴーニュ公フィリップだった。十年の時を経て親子はついに再会を果たしたのだった。

(第2章完結)

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