伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 アンボワーズ城で待つ君に7/ハプスブルク戦記
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

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アンボワーズ城で待つ君に7/ハプスブルク戦記

姫君は、大変に教養のある女性に育っていました。悪い魔法使いは、姫君が、その母親を死に至らしめた自分を憎しむのではなく、憐みの目すら向けるので、戸惑いを覚えるのでした。

ハプスブルク戦記
桜の下の王子様

第2章 アンボワーズ城で待つ君に




世界遺産ロワール渓谷。そこはフランス屈指の風光明媚な場所だ。後世において、建物の大半が取り壊されてしまったのだが、一四九一年当時は、後のヴェルサイユに匹敵する王侯が集う大宮殿が存在した。バロワ朝の王宮アンボワーズ城だ。王宮の一角に教会があった。

講義室には、一つだけ勉強机が置かれ、修道着姿をした乙女がノートをとっており、後方に侍女たちが控えていた。向かい合った席には老司祭がいて、その人は何度も質問したものだった。

「マルシオ先生、神様にお会いしたことはございますか?」

「ございません」

「誰もお会いしたことはないと答えます。ではなぜ、人は神様を信じるのでしょう?」

「古代ギリシャにプラトンという哲学者がいました。プラトンは、天上界の存在を定義しています。人には、業というものがあり、解脱したものだけが、神のおわす世界に到達できる。そう考えたのです」

「解脱に至るには?」

「人は、肉体により縛られた存在です。修練によって理性を磨き、悟りを得るしかありません」

「先生は、神様の世界に近いのですか?」

「まだまだです」

「私は、魂と身体が別箇のものとは考えません。身体があるから魂もあるものだと思います。私の身体は今、ここにあります。ゆえに先生の素晴らしい講義を聴くこともできるのです」

「貴女様は、私が尊敬するプラトンではなく、アリストテレスを好まれていらっしゃる」

司祭が困った顔をして笑った。

講義室の戸口のところに、一人の貴婦人が、満足そうな笑みを浮かべて立っていた。夫はピエール公爵でブルボン公の称号を共有していた。三十歳になる一男一女の母親だ。きつい容貌の割には、案外と面倒見がよく、前国王から託された少女を、わが子同様に扱った。

乙女は、幼いために国王と枕席こそ共にはしないが、シャルル八世の妃で、義理の妹に当たる。フランス王妃に相応しい最高の教育を施した。十一歳になった処女王妃の名はマルグリッド。マクシミリアンとマリーの間に生まれた娘だ。

宮殿の廊下は、規則的な柱列から、欄干を持った梁に至り、そこからアーチ状をなしつつ、火山が火焔を噴き上げ、扇を広げたかのような形状様式をなしていた。「フランボワイアン」様式というものだ。

アンヌ女公は、シャルル八世が成人するまでという条件で、夫のピエール公と共に摂政職に就いていた。夫は、前国王同様に宮廷魔道士コミーヌを重用していた。だが、女公は「黒の貴紳」を生理的に受けつけず、侍女たちに、「王妃に近づかせぬように」と命じた。それでも宮廷である以上、避けきれるものではない。

侍女たちに守られているものの、義理の妹に当たる王妃が通路を歩くと、宮廷道士にすれ違うことも珍しくなかった。

(何だ、あの娘。なぜ憐れむような目をするのだ――)

冷酷無比なコミーヌといえども、マルグリットが振り向き目が合う度、そんなふうに感じたものだった。



【登場人物】
 

マルグリット:マクシミリアン皇子とマリー女公の間に生まれる。義理の祖母マルグリット太后の名を戴く。誘拐同然にフランスに連れ去られる。

フィリップ
:マルグリットの兄で、後に「美男公」の異名をとる。

マリー
:故人。ブルゴーニュ公国シャルル突進公の一人娘。亡き母親はブルゴーニュ公妃で、宿敵であるフランス王は本家筋にあたる。

マクシミリアン
:神聖ローマ皇帝フリードリヒ三世の皇子。後に「中世最後の騎士」と呼ばれる。マリー公女を妃としてブルゴーニュの共同統治者となる。

ザウア
ネッケ:神聖ローマ帝国騎士。

マルグリット太后
:ブルゴーニュ公妃でマリー公女の継母。

コミーヌ
:ブルゴーニュ公国元家臣でフランス王国に寝返る黒衣の貴紳。

ルイ十一世
:故人。フランスの前国王。蟇蛙のような容貌をもつ。息子はシャルル八世。妻はシャルロット。

ブルボン公ピエール
:シャルル八世の摂政。

アン
:シャルル八世の歳の離れた姉。ブルボン公妃。

シャルル八世
:フランス国王。ルイ十一世の息子。

ガスパーレ
:貴族出身のイタリア人傭兵。マクシミリアン誘拐の実行犯。

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