伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 アンボワーズ城で待つ君に6/ハプスブルク戦記
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

アンボワーズ城で待つ君に6/ハプスブルク戦記

有能な部下が次々と集まり、国境の侵略者を撃退した王子様は、自信を回復して行きます。そんなとき、やもめとなって久しいその人に、再婚話が持ち上がってきました。

ハプスブルク戦記
桜の下の王子様

第2章 アンボワーズ城で待つ君に

6

ドナウ川は、ドイツ南部の『黒林』を水源として東流し黒海に注いでいる。東西を縦断する川沿いの道と、南北を縦断してイタリアに達する『琥珀街道』の十字路にその町はあった。ウィーンだ。オーストリー本国でも、異様に東辺に寄り過ぎた町である。ハプスブルク家が、ブルゴーニュを巡ってフランスと抗争しているどさくさに紛れて、東のハンガリーが侵攻し、一帯を占拠してしまった。

一四九〇年夏のことだ。ローマ王マクシミリアンは、父親であるフリードリッヒ三世により、失地回復を命じられ、都城インスブルックを出撃した。ハンガリーは、伝統的な騎兵を繰り出してきた。

古い時代の野戦というのは、互いに間合いを詰めてから、開戦するのがお決まりだった。戦場も見晴らしが良くて機動性が高い平野部が好まれる。双方、一万弱といった軍勢だった。

ハンガリー軍は方陣をなしたいくつかの部隊を横に並べた格好だった。大砲が撃ち込まれ、中央前衛に構えた部隊のマスケット銃の斉射が始まり、陣の左右にいる槍騎兵が突撃、中央後衛の主力歩兵が続く。ハンガリー騎兵は、機動性を生かして、オーストリー軍の背後に回って来ようとしていた。

オーストリー軍は、ギネガテの戦いで強さを実証した『市松陣形』をとっていた。方形にした五つ部隊を菱形の陣形に配置したものだ。

それでも、背後を衝かれるということは、再起不能というほどに心理的な打撃を与えるものだ。濛々と砂煙が上がっている。ハンガリー騎兵の左翼が、オーストリー軍の背後に迫ったのことだ――。

「斉射!」

伏せていたイタリア傭兵が、起き上がり、数百メートルほどに近づいたあたりで、狙撃しだした。ガスパーレの傭兵たちは、マスケット銃の熟練者ばかりだった。人間リボルバーである二段構えで、五十発の鉛玉が絶えず飛んだ。

運よく、たどり着いたハンガリー騎兵の前には柵列状をなした槍が立ち並べられていた。馬はこういう障害物をみると、思わず立ちすくむ。そこを最後の銃撃を加え、しつこい奴は、槍で馬を刺して騎士を落馬させ、二の槍で討ち取るのだ。

後方の脅威がなくなると、主力、ザナウやネッケが率いるランツクネヒト傭兵隊が足並みを揃えて前進した。

ハンガリー軍は、押し戻された格好で隊伍を瓦解。潰走を余儀なくされた。

こうして、マクシミリアンは、失地回復に成功し、対フランス戦の自信を取り戻したのだ。



さて、少し話を遡ることにしたい。

当時、フランス王国の内部にも領邦国家が多数存在し、十字軍と百年戦争の疲弊により、封建領主勢力は次第に淘汰されていった。もちろん抵抗勢力もあった。フランス北西部には大西洋に突き出た大きな半島がある。ブリターニュだ。そこには、大きな同名の公国が拠っており、ヴァロワ王家に敵対していたのだった。

語弊のないように蛇足すると、長くフランスと係争してきた妻マリー女公の公国ブルゴーニュは、フランドルあるいはフランダース地方といい、オランダ・ベルギー・ルクセンブルクの三国とフランス西辺を含む地域をさしている。


マクシミリアンがヤモメになって久しい。フランス・ヴァロワ王家の敵はハプスブルク家の友だ。父である神聖ローマ皇帝により、ブリターニュ公の娘との再婚を命じられた。公女の名前はアンという。美少女という噂だ。

一四八八年、父親のブルゴーニュ公が、落馬による事故死をして女公となった。十一歳である。摂政は決まっておらず、貴族たちは主導権を争って、宮廷は混乱していた。先妻のマリーと結婚したときと同じ状況だ。

ところが、この時期のマクシミリアンは、対ハンガリー戦のため多忙で、結婚式には直接行けない。

一四九〇年のこと、代理人を送って十三歳になった少女と挙式した。結婚したとはいっても仮初めのもので、花嫁と直に言葉を交わしたことすらない。


【登場人物】 

マルグリット公女:マクシミリアン皇子とマリー女公の娘。

フィリップ公子:マルグリットの兄で、後の「美男公」。

マリー女公:故人。マクシミリアンの妻。

マクシミリアン皇子:神聖ローマ皇帝フリードリヒ三世の皇子。マリー女公を妃としてブルゴーニュの共同統治者となる。

ザウアとネッケ:神聖ローマ帝国騎士。

マルグリット:ブルゴーニュ公妃でマリー公女の継母。

コミーヌ:ブルゴーニュ公国元家臣でフランス王国に寝返る黒衣の貴紳。

ルイ十一世:故人。フランスの前国王。
ブルボン公ピエール:シャルル八世の摂政。

アン:シャルル八世の歳の離れた姉。ブルボン公妃。

シャルル八世:フランス国王。ルイ十一世の息子。

ガスパーレ:貴族出身のイタリア人傭兵。マクシミリアン誘拐の実行犯から、懐刀へ転進。

フッカー:青年商人。マクシミリアンの経済分野の軍師。

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