伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 雫と/恋太郎白書140・(巡礼編8/8・最終回)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

雫と/恋太郎白書140・(巡礼編8/8・最終回)

昭和時代末短編恋愛小説群
恋太郎白書(巡礼編)
第140回 雫と (巡礼編最終回)

昔、恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は指を差して恋太郎《れんたろう》と呼んだ。花や紅葉《もみじ》がはらはらと漂う、そんな若者であった。
 


秋の日曜日のことだ。

西口に寄った新宿駅小田急線改札口を抜けて、パールホワイト色の内装の通路に、二人の若者が現れた。出迎えたのは母と娘らしい二人だ。少し遅れて、アメリカの音楽家ポール・モーリアによく似た口ひげの紳士もやって来た。

学生時代に入り浸った喫茶店「めらんこりい」のマダムの呼びかけで、新宿駅には発起人とその娘、常連客たちが集った。

マダムは十歳若くいっても疑う人がいない。長い髪を後ろに束ね、少し焼けた肌が南方系を思わせる。

恋太郎が在学中のとき、高校生であった店の娘、美咲《みさき》は、九州にある大学で学んでいた。

常連客は、ポモリ教授、愛矢、恋太郎である。

ポモリ教授は変わらず学会で活躍していた。

愛矢は、恋太郎より頭一つ背が高い。現在はIT企業のプログラマーだ。

恋太郎は平均身長よりはやや高いのだが、愛矢と並ぶと小柄にみえてしますのは歪めない。とりあえず外国人相手の日本語学校講師に就職してはいる。だが私費留学するための、アルバイト感覚があった。


「久しぶりだね、恋太郎君」

背の高い口ひげを生やした初老の紳士、ポモリ教授が両手を握ってくれた。

ぽっちゃり顔の美咲は、「えいっ」と人差し指で頬をつつく。

恋太郎を除けば、皆、元気だ。


地下鉄丸の内線に乗って四ツ谷駅に向かった。駅近くなると、路線は地上に剥き出しになってしまう。東西を走る丸の内線と南北を走るJR線が交わり、また東西を走る新宿通りと南北を走る外堀通りが交わる場所でもあった。

ダークグレイの古びたプラットホーム。

立体交差点付近にある駅から、南西をみたところにマンションが望める。雫が住んでいたところだ。



長い髪をした物静かな雫。恋太郎にいつも寄り添っていたその人は、あのころ、誰の目にも幸福に満ち溢れてみえた。事件当日は春の夕時。雫は一人で、駅ビルで買い物をしてから自室に戻ろうとしていた。

外堀通りにある四谷学院前の桜並木にさしかかったときのことだ。木の陰に隠れていた男が踊りかかってきたのだ。昔の交際相手で、雫を尾行し、復縁を迫ったが断られ、腹いせに、バタフライナイフで、背中や胸、腹を滅多刺しにしてしまった。

そして恋太郎の時間も止った。

事件現場である桜樹の根本には、今も花が献じられているのだけれども、恋太郎は恋人の死が受け止められず、現在に至るまで訪れたことがなかったのだ。



祈りの場には先客がいた。白いスーツ。肩までのばした髪。オレンジのような香りが漂っている。

「麻胡先生? 帰国していらしたのですか?」


「NASAに休暇をもらったの。たまたまマダムと電話で話をしたら、みんなでここに来るっておっしゃるものだから、帰宅の途中で寄らせて戴いたわ」


マダムたちは、遠くにいて手を振っているばかりで、こちらに近寄って来ない。麻胡先生は、「まったく」とつぶやいて笑い、それから恋太郎と並んで手を合わせた。


恋太郎が、切れ長の目をした先生の横顔をみた。


(雫さん、厭じゃなかったら、私に宿ってもいいよ)


そんな風に語りかけているように感じたのだ。



(巡礼編稿了)





【登場人物】

恋太郎《れんたろう》:失恋の天才児。

雫《しずく》:故人。恋太郎の学生時代の恋人。

マダムと美咲:喫茶店「めらんこりい」の店主と娘。

愛矢《よしや》、ポモリ教授:「めらんこりい」常連客。

麻胡先生:恋太郎の運命の人。元教師、宇宙飛行士。


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