伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 オーブ/恋太郎白書137・(巡礼編)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

オーブ/恋太郎白書137・(巡礼編)

昭和時代末短編恋愛小説群

恋太郎白書(巡礼編)
第137回 オーブ

昔、恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は指を差して恋太郎《れんたろう》と呼んだ。花や紅葉《もみじ》がはらはらと漂う、そんな若者であった。



藤沢駅で小田急線からJR線に乗り換え、大船を経由して、北鎌倉で下りた。鎌倉は、低い山合いに開析したところが、蛸足《たこあし》のように、はったような地形をしている。北鎌倉もそうだ。

駅から線路に沿った県道二十一号線を南東に二三百メートル下ったところに、町の風景に溶け込んだ瀟洒《しょうしゃ》な喫茶店が、いくつか軒を連ねたところがある。そのあたりで道路右手にある丘を背にし佇んでいるのが東慶寺だ。


梅、桜、紫陽花の名勝と訊くのだけれども、訪れたのは秋で、特に彩を添えるというものはなく、木立の緑ばかりが記憶に残った。陽射しはまだきつい。


恋太郎は門前の石段に腰を下ろし、『伊勢物語』の一節「思ひあまり」をそらんじた。


「思ひあまり出でにし魂のあるならむ夜ふかく見えば魂むすびせよ」


口にしてからまた後悔した。

恋人のことを思うがあまり、魂が身体を抜け出して飛んでしまう。夜がふけ、夢にでたら自分をつかまえていてほしいという内容だからだ。




玉響《たまゆら》というものがある。闇に遊ぶ淡く光る雨露のような青い珠《たま》のことだ。

目が覚めるといつも側にいる。もし、自分に名残りがあるのなら、縁を切って、涅槃《ねはん》に福を得てほしいと願っていた。


けれど恋太郎は知っている。彷徨《さまよ》っているのは、亡くした恋人ではなく自分自身だということを。



(稿了)




【登場人物】

恋太郎:失恋の天才児。

雫《しずく》:故人。恋太郎の学生時代の恋人。


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theme : ファンタジー小説
genre : 小説・文学

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