伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 火車 1/2
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
line

火車 1/2

火車 1/2

 大唐の都長安は、中央の朱雀門街を挟んで東西に各五十四坊を数える条坊都市で、四辺を囲む城壁内部の条坊をも牆壁で仕切っていた。刻限となれば各条坊の門は閉じられ市民はそれまでに帰宅せねばならず、うかうかとしておれば締め出されてしまう。

 
東市は九坊からなり、軒を連ねた商店街には、畿内で産する穀物から、織物や陶磁器類などの生活雑貨、全国各地から取り寄せた特産物の珍品が並び、合間には花街やら飲食店も混在している。

 
その長安に、魏(ぎこう)という肥った名士がおり、人づてに李白を知って、玄宗皇帝の妹君である玉真公主を介し天子に推挙するに至った。そんな李白が宮中に召される少し前のことだ。条坊の門が閉じられる刻限を知らせる鐘が鳴らされたのだが、何、気にするほどのことはない。夜通し飲み明かせばよい。毎夜のことではないか。

 気取った料亭は飽きてきた。親仁一人が切り盛りする居酒屋に入る。
四十を超えたばかりの男が二人、酒を酌み交わしながら詩の批評を始めようとしたのだが、今宵は少し空気が重い。というのは店の隅にいる陰気な様子の男が気になって仕方がないのである。身なりばかりはいいが、小柄で貧相な感じがする。

 李白は、思い切って男の席に徳利を持って行き、杯に酒を注いでやった。


「なぜにそれほど震えているのだね?」


 瞼の下には隈がある。男は、おどおどした様子で李白の顔をみつめた。

 酔って上機嫌になった李白の顔は紅潮している。彫り深く青い目をした西域顔。顎には長い髭、調進である。漢族に非ず違和感があるが邪気というものがない。安堵した男はぽつぽつと身の上話を始めたのだった。



 十年前になる。月の夜、隣の条坊に住む友人と話し込み刻限に遅れた、親族である門番に頼み込んで、西市安永坊にある自宅に戻る。条坊の門をくぐる少し手前に大きな邸宅があるのに気づく。

(おかしい。ここは空き地だったはず)


 男は首をかしげながら通り過ぎようとしたその時、足に何かが当たった。拾い上げて月光に照らしてみると一冊の帳面のよう。


(竈の焚き付けくらいにはなる)


 そう思ってあばら小屋に持ち帰ったのだった。


 夜が明け、朝げの支度をしようと、寝ぼけ眼をこすりながら、竈の薪に火をつけるため、昨夜拾った帳面を手にし頁をめくってみる。男は浅学の身ではあったが何とか文字の読み書きくらいはできる。帳面には、びっしりと名前が書いてあるではないか。


 なんとなく頁の末行に自分も名前を書いてみたくなり、硯箱を持ってきて一筆加えてみた。
その夜、男の家に、どこぞの富豪に厄介になっている書生風の若者がやってきた。

「お迎えに参りました、旦那様」


 男は若者がからかっているのだろうと思ったが、相手の調子に付き合って、「おお、ご苦労」と答えた。


 外には馬車が控えている。さすがに気が引けたが、どういうわけだか乗ってみたくなった。馬車が、条坊の門前にくると、門番はそそくさと開けて通してくれる。そのまま車は前日に見かけた邸宅に入って行った。


 男を乗せた馬車が着くと、暗がりの屋敷中に明かりがともり、賑やかに琵琶に笛太鼓まで奏でられ、中に入ると舞姫まで踊っている。


 主席につき男の坂付きに酒が注がれる。酒を注いだのはまだあどけなさが残る夫人だ。


 自分は独り身の小役人のはずだったのに国内交易で巨万の富を築いた素封家になっている。これは夢だ。夢ならば全て合点が行く。ならば醒めるまで大いに楽しまねば損というものではないか。酔い、舞って、美麗な夫人と寝台を共にする。



(つづく)


   
スポンサーサイト

theme : ファンタジー小説
genre : 小説・文学

line

comment

Secret

line
line

line
Google ペイジランク
ページランク-ナビ
line
奄美剣星
line
文鳥貴族
文鳥貴族
line
最新記事
line
「怪盗めろん」

 

line
「文鳥王トリスタン」
 
line
ブクログ
line
小説家になろう
line
amazon書籍
line
アルパカ版の恋太郎です
line
映画『副王家の人々』より
副王家の一族 
line
イアリング
 ekubo
line
チャイナドレス
chainadoress
line
ポーズ
sofa
line
魯迅記念博物館
inu
line
陽だまりの乙女
usagi
line
裸婦
うつぶせのジャスミン
line
sakasu
line
打ち上げ花火をあげられる四季の風景時計
line
PC広告Amazon
line
テーブルと椅子
椅子3   
line
sub_line
プロフィール

奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)

Author:奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)
1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

line
ranking 1
 
line
ranking 2
人気ブログランキングへ
line
置手紙
おきてがみ     
line
Twitter ぼたん
Sweetsman7をフォローしましょう
line
レッドバロン
line
検索フォーム
line
QRコード
QRコード
line
所収作品について
文献・画像等引用の場合は引用元を記載。自作小説倶楽部作品著作権は各著者に帰属。それ以外の文藝作品・絵画写真画像に関する諸権利は当該ブログ管理人に帰属。無断複写転載を禁じます。
line
カジュアルのシナモン
シナモンアップ 
line
リンク
line
マラッカ要塞
marakka
line
珈琲館の割れ甕
城南
line
地図
line
草原の乙女
sougenn
line
バー
eruhurio  
line
海へ行こう
umiheyuku2
line
祖母
  umiheyuku 1
line
洗い髪
araigami
line
癒しの音楽
line
sub_line
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。