伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 終章、美酒を口にする者5 ファア王国志
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

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終章、美酒を口にする者5 ファア王国志


ファア王国志

終章 美酒を口にする者
 
5

ファア王国の隆盛は続いているか、に思えた。ハーンが宰相に就任したと訊いた国内で暗躍していた盗賊たちは他国に逃げ出した。

中原にこそ出ては来ないジーン侯国は北方の諸族を各個撃破して、跡地に植民都市を建設、版図を着実に拡げていた。兵力も少しずつではあるが回復し始めている。

(あと、この国に足りぬ物は何か?)

宰相ハーンは考えた。昔、ユンリイの祖父の代のとき、ファア王国に使節として赴いたことがある。中原では辺境の蛮族のようにいわれていた王国都城エイの繁栄。壮大な王宮庭園「羽林園」、前途有望な子弟を集めた王立学校の存在。

(そう、ジーンに足りぬのは「文化」だ)

戦後処理のやるべきこと成し終えたハーンは、宰相を辞して、帰国していたオーソンに手紙を書き、二年間、帝都に遊学。学芸機関や諸制度で目につく限りのものを学んで帰国し粗野な辺境侯国から文化大国への脱却を図ったのである。帰国してから元老として「翰林院」《かんりんいん》というアカデミー機関の設立する。

その最中、なんとファア王国摂政である国師マガが、ティア侯国に帰国していたセリナ公女を奪ってジーン侯国に亡命してきたということを宰相は耳にした。



あれほどに冷静であった国師マガだったのに、「恋に狂った」としか思えない行動は余りにも唐突で謎としかいいようがなく王国を震撼させた。ステータスシンボルでもある絶世の美女をわがものとしたという大貴族たちの嫉妬、位人臣を極めながら、祖国を見限って他国に走った、ということへの義憤が国内に吹き荒れる。

大貴族たちの私兵が、ファアになおもとどまっていたマガの領国を焼き討ちにして、男子は皆殺し、女史は慰み者として分け合うという暴挙に出た。



そのことについてはこんな異聞がある。

ラン将軍を討ったクラウスト将軍の故国ギルメルとの講和において、族滅を主張するファアの諸将が大多数であった。そこにサトウとナカイを派遣して講和をさせた国師マガは実質的な最高権力者ではあったが、ユンリイ王のようなカリスマ的な元首の後ろ盾がなく孤立していた。

帝都ズウに戻っていたオーソンは「草」を放って、「ギルメルから賄賂を貰った」とも、また、「エリナ夫人はもともと刺客で、ギルメルのためにマガが命じて少しずつ毒をもらせていたのだ」ともファア王国主要都市で噂話をばらまく。 この人は陰謀によってジーンに亡命せざるを得なくなった。

――国師マガは、異母弟であるユンリイ王の言葉に従ってティアに出向き、エリナ夫人に求婚しただけに過ぎない。マガが王国を離れた瞬間に、諸将を抑えていたタガが外れて、恐ろしい結末を迎えた、というのだ。今となっては真相は判らない。それに、宮廷魔道士であるこの人は、王国よりも、弟であるユンリイ王のみを愛し、あらゆものに目の前の全てに優先させていたのだが、巨大なカリスマの喪失は、諸将ならずとも理性の人であるマガすらも狂わせたのだ。

そんなふうに、『ファア王国志』著者のサトウは所見で述べている。



亡命先のジーンにあって仔細を伝え聞いたマガは、ジーンの大公に、「ファアに一泡ふかせてやりましょう」と進言し、大型船五十隻からなる船団を組んでワプウの大河から大海に繰り出し島づたいに南下。ファア王国の背後にある南蛮諸国にたどり着く。

そこの族長たちに、「ジーンと交易して戦象を売るならばファア王国の倍値で引き取る」と持ちかけ、その上で、「王国の兵力はどちらかといえば中原に偏って配備されている。沿岸の諸都市は無防備だ」とけしかけた。

ジーンも戦象を手に入れ部隊を編成。ときとしてワプウを渡河して中原諸国を襲う。王国軍が救援に向かうと、南蛮諸国が本土の沿岸諸都市に来寇してくるので、国軍は南北で振り回され国力を疲弊させてゆく。

そして第三回めのティアにおける「決戦」が行われ、ファア王国が完膚なきまでに叩きの目にされる番だ。



中興の祖であるユンリイ大王がしっかり地盤を固めた王国は強大で、「決戦」に敗れはしたものの、それでも滅びない。

主戦場は得てして中原諸国である。ファア王国とジーン侯国の中原支配権を巡る抗争はユンリイ王の祖父の代から続き、都合八十年目にして戦いは突如として終結する。

「八十年戦争」を終わらせたのは、ファアでもジーンでもない。意外な者が表舞台に立っていた。そう、あの「中原の頑固者」と呼ばれるギルメルだ。




(※ 次回、終了第6節をもって『ファア王国志』全編完結)


【脚注】

〈ファア王国〉
ユンリイ王:青年君主「覇王」
シナモン内親王:ユンリイの姉
サトウ、ナカイ、弓仙のヤン、戟のセオ、剣のラン、国師マガ:ファア王国の王臣たち。
フィエルナとルイ:王妃と副妃。エルナの長女次女

〈ルーコン氏族〉
エルナ:森の民ルーコン氏族の女族長

〈ジーン侯国〉
ハーン将軍:世界最強の黒甲兵を率いる名将
キース元帥:ハーン将軍の盟友。名将
オーソン:帝国の廷臣で客分としてハーンの参謀に
アベラ将軍:前宰相の息子。第三軍の若い将領
ダンカン将軍:公室一門。第四軍の若い将領
  
〈クオン侯国〉
セリナ:ティア侯国公主、絶世の美女
 
〈ティア侯国〉
同名都城は中原屈指の商都。ファア・ジーン間の係争地。ジーン侯国傘下の同盟国

〈ギルメル侯国〉
日の出の勢いのファア王国に恐れをなし、他の中原諸国が盟主ジーン侯国を見限って行くなか、最後まで屈しない「中原の頑固者」である。主将クラウストは三十半ば。一子エトラの父で大公の弟

〈その他の中原諸国〉
ジーンの同盟国:ズウ帝国。ファアの同盟国:クオン侯国


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