伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 風見鶏侯国《ティア》7 ファア王国志
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

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風見鶏侯国《ティア》7 ファア王国志

ファア王国志

第5章 風見鶏侯国《ティア》
 
7

ティアの都城は樹木よりも高い石積みの城壁で、四辺に配された城門の側面には弩弓兵を潜ませた塔楼が複数並んでいる。虎口とでもいうのだろうか、突破するのは容易なものではないが、四方から一辺に攻め立てれば話しは別だ。

ファアの大使サトウは、使者の証である白旗を戦車に掲げ門前で次のような口上を述べた。

「ファアがティアを囲むのはティアを滅ぼし、土地を掠め取りたいという野心からにはあらず、ティアがジーンと盟約を結んでいるという一点に尽きる。願わくば大公陛下に御取次ぎ戴きたい」

城門がわずかに開き、隙間からサトウを乗せた馬車がすり抜けるようにして中に入っていく。

都城は矩形の城壁で囲まれ宮殿と二つの城市の結合体で南北に長い形状をしている。兵員五千を有する都市は五万戸二十五人を数え、この時代としては中原屈指の大都市であった。

庶民のいる地区「下都」は大通りから南に外れたところにある。大貴族たちの瓦ぶき屋根の大きな屋敷が連な
るのは大通りで奥にある宮城に続いている。土嚢やら革車やらで閉塞した大通り。戦車一乗がなんとか通り抜けられる幅だ。

前日は、哭礼による陶酔によって「狂戦士」状態になったティアの兵士や邑民たちは、王国軍が一時退却したことで肩透かしを喰らったため、すっかり毒気を抜かれて、地べたに腰を落して虚ろな目をしている。

宮城の政事堂の奥に首座があり、両脇の床に重鎮たちが直接腰を降ろしている。通されたサトウは首座の大公に対面してこう説いた。否、説いたというよりも、相手が望む妥協点を代弁してやったのだ。降伏に際しての最低限の面子もたててやる。

「大公陛下、ファアにお味方頂けますれば幸いかと? もしファアがジーン侯国と戦になった場合、先陣に立つというお約束を頂ければ、逆にもしティアがジーンに攻められたとき派兵をお約束します」

「ティアへの処遇は?」

「所領安堵」

大公や重鎮たちの動きが一瞬止まった。

「ご不満ですか?」

あろう筈もない。君臣は張りつめていたものが気化したかのように脱力して萎えたようにみえる。大公はずるっ、と椅子から滑り落ちそうになるのをどうにかこらえた。こうしてティア侯国は四半世紀ぶりにファア王国の傘下に入ったのである。

ティア侯国が寝返ったことで、ジーン侯国軍は「ティア救援」という大義を失った。またティアは中原の要である。
大河ワプウにはいくつかの渡し場が存在するが、ティアこそが対岸最大拠点で、そこを失ったということは、中原諸国とほぼ分断された恰好になる。

「中原の頑固者」ギルメル侯国はなおもジーンを裏切らず、ファア王国の後方補給部隊を襲って後方攪乱作戦を続行していたのだが、「黒林」の新道こそが大動脈となっており大打撃には至らなかったのである。



ティアからワプウ河を挟んだ対岸の河港リュウトに陣取っているのはジーンの援兵九万の大軍である。

老練なキース元帥やハーン将軍が、「ギルメル侯国には気の毒ではあるが多数に無勢というもので、ここで斬りこんでも犬死だから都城コウへ引き上げるべきだ」と提案すると、ジーン国の諸将、特に若い諸将が鼻息を荒くしてまくしたてた。

「中原に孤立したギルメル侯国を見捨ててはならぬ。ギルメルはジーンを裏切らなかった。そういう国を見捨ててジーンは覇者と胸を張り答えられるのか」

ジーン侯国軍は九万の軍勢を六軍に割っていた。このうちのアベラ将軍麾下の第三軍とダンカン将軍麾下の第四軍が独断で渡河を開始。ティア領であるワプウの右岸に上陸を始めた。

野営地のある川岸に立って渡河しつつある友軍を苦々しい顔でみていたのは、キース元帥、ハーン将軍、そして招かれてハーンの謀将に収まっている帝臣オーソンの三将である。

「孺子《がき》どもめが」

舌打ちしたのは主将でも副将でもなく、帝都から来た客分の謀将だった。





【脚注】

〈ファア王国〉
ユンリイ王:青年君主「覇王」
シナモン内親王:ユンリイの姉
サトウ、ナカイ、弓仙のヤン、戟のセオ、剣のラン、国師マガ:ファア王国の王臣たち。
フィエルナとルイ:王妃と副妃。エルナの長女次女

〈ルーコン氏族〉
エルナ:森の民ルーコン氏族の女族長

〈ジーン侯国〉
ハーン将軍:世界最強の黒甲兵を率いる名将
キース元帥:ハーン将軍の盟友。名将
オーソン:帝国の廷臣で客分としてハーンの参謀に
アベラ将軍:前宰相の息子。第三軍の若い将領
ダンカン将軍:公室一門。第四軍の若い将領

〈クオン侯国〉
セリナ:ティア侯国公主、絶世の美女
 
〈ティア侯国〉
同名都城は中原屈指の商都。ファア・ジーン間の係争地。ジーン侯国傘下の同盟国

〈ギルメル侯国〉
日の出の勢いのファア王国に恐れをなし、他の中原諸国が盟主ジーン侯国を見限って行くなか、最後まで屈しない「中原の頑固者」である。主将クラウストは三十半ば。一子エトラの父で大公の弟

〈その他の中原諸国〉
ジーンの同盟国:ズウ帝国。ファアの同盟国:クオン侯国

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