伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 二十号文書10(第1章稿了) 伯爵令嬢シナモン
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

二十号文書10(第1章稿了) 伯爵令嬢シナモン


   
歴史推理小説
Lady Cinnamon. Part Ⅳ
(『伯爵令嬢シナモン』第4部)

「二十号文書」No.10

第1章 押し込まれた手紙(9)

名古屋駅を出た列車が岐阜に達しようとしたとき、黄金の髪を後ろに結わえた若い貴婦人が、ロシア人が座っていた席に座った日本人女性の前に立って、スカートの両袖をつまむ古風な挨拶「カーテシー」をして氏姓を名乗り微笑むと女性も自然と微笑み返す。

 「ここにイワン様がお座りになっていたということを貴女は知っていた。というより、手荷物預かり所に濱田教授の鞄が預けられたこと、一等席のどこに濱田教授が座る
か初めから連絡を取り合って知っていた。
 間違って手紙を入れたのではなく、乗り込んでくる甘粕大尉たち官憲の皆さんの検閲を予想し、当事者とは無関係である博士を利用してここまで運ばせる。いかにも怪しげなイワン様は手紙を奪って下車。官憲が捕まえたのだろうけれども肝心の手紙は持っていない。
 手紙は貴女が座ったときに回収した。違いますか?」

「手紙を回収、どういうことです? この方がいらっしゃるまで座席には何もありませんでしたよ」

 ドロシーがそういうと、シナモンは、座席の台座に布を貼りつけたところに鋭利な刃物で切った跡を指さした。それでドロシーは事件経緯の大半を悟った。

 「満州に日本陸軍将兵が大量投入されているとのことです。甘粕大尉がおっしゃるような国益に関する極秘事項とすれば、手紙は日本軍が北に行くか南に行くかというという内容ではありませんか?
 このことが気になる国といえばソビエト・ロシア。ソビエト・ロシアには、革命直後に共産勢力の拡大を嫌った日本軍が干渉して出兵してきたというトラウマがあり、そんな筋書が考えられます。あくまでも憶測ですが」

席にいた日本女性は困惑した表情である。

濱田博士と川島芳子は、「なるほど」とうなづく。シナモンは続けた。

「甘粕大尉のお役にも立ちたいですけれど、この件に関しましては日本政府とソビエト政府が話し合うことで、一介の旅行者である私どもが関わる内容ではありません。そういうことでよろしいですね?」

顔をこわばらせた女性が無理に笑みを浮かべる。



岐阜駅を経由した列車は琵琶湖畔を抜け大津駅から京都駅に入った。到着した京都駅で濱田博士と別れる。その際に博士が連絡先を書いた紙片をシナモンに渡す。

「私の自宅と職場の京都大学だ。貴方の父上にはお世話になった。御恩返しといってはささやか過ぎるが京都・奈良の見どころをご案内したい。
 そうそう、レディー・シナモン。昔、貴女の父上に招かれてリザードを訪れたことがある。貴女は環状列石の前にいて、私を含めた客たちの前から姿を消し、ティーパー・ティーに戻ったわれわれよりも早く城に戻って出迎えてくれた。あのときの謎解きもして欲しい」

「この事件と同じく単純なことで、犯人が座席に小さな穴を剃刀で開けて手紙を押しこんだように、リザードの環状列石には子供一人が通れる口の狭いトンネルがあるのです。トンネルはリザード城に帰るには便利な近道でした」

濱田教授が深くため息をつく。

「まったく、真実という奴は、事物事象のちょっとした『ポケット』に収まっているもので、それをみつけられるか否かで表に出る出ないが決まるのだということをつくづく思うよ」

タクシー乗り場から濱田博士とシナモン一行が別れて行くのを見送ったのは、座席下の「ポケット」から例の手紙を抜き取った女性だった。

女性もタクシーに乗る。先客がいた。ドイツ人の男性で、女性が乗りこむと抱き寄せキスする。女性は手紙を渡した。

「ゾルゲ様、若い貴婦人に会いましたのよ」

「知っているよ、ミヤコ。レディー・シナモンだろう。『コンウォールの才媛』と呼ばれていて、『その筋』では有名人だ」

「レディー・シナモン? 『コンウォールの才媛』? 憶えておきます」

ドイツ人男性はリヒャルト·ゾルゲといい、日本人女性は愛人でミヤコこと三宅花子という。


(第1章稿了)




【登場人物】

シナモンアップ
レディー・シナモン:イギリス女性考古学者。「コンウォールの才媛」の異称がある。

P4240005.jpg 
ドロシー・ブレイヤー:伯爵家の若い執事。アメリカ女性考古学者。

ウルフレザー:伯爵家老家宰。シナモンの守役。 

濱田耕作博士:考古学者。後の京都大学学長。戦前における日本考古学界の巨頭であった。

川島芳子:女優。清朝皇族粛親王の第十四王女、愛新覺羅顯㺭《あいしんかくら けんし》。日本人の養女となる。

甘粕正彦《あまかす まさひこ》:予備役大尉。後に諜報組織「甘粕機関」を立ち上げる。

イワン:ロシア人。事件関係者のようである。

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genre : 小説・文学

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