伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 伯爵令嬢シナモン3「修道院島」第1章6
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

伯爵令嬢シナモン3「修道院島」第1章6

前回までの粗筋

 1920年代の終わりごろ、群馬県の利根川中州〈軍艦島〉で若い女性黒岩梅の遺体が発見された。容疑者は画家竹久夢二。 夢二の知人萩原朔太郎は、佐藤記者を介して、レディー・シナモンに捜査を依頼する。そして高崎警察署遺体安置室へ。

主要登場人物
 
レディー・シナモン……英国伯爵令嬢・考古学者。「コンウォールの才媛」の異名がある。
ドロシー・ブレイヤー……京都大学在籍の米国人女性考古学者。短期契約でリザード伯爵セシル家執事となり、シナモンのガイドを勤めている。
スイーツマン・ウルフレザー……リザード伯爵セシル家家宰
佐藤と中居雑誌『東京倶楽部』の記者とカメラマン。社命によりシナモンを取材中。 
萩原朔太郎(はぎわら さくたろう)……群馬県出身の詩人。
竹久夢二(たけひさ ゆめじ)……奔放な詩人にして画家。
長尾警部…………群馬県警の事件担当者。
黒岩梅(くろいわうめ)……〈軍艦島〉で変死体として発見された女性。夢二の元交際相手。

 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

 遺体安置室は地下にあるためすこしひんやりしている。線香、防腐剤、カビ、それに遺体そのもから漂う臭いが混ざって重たくよどんだ空気となる。裸電球のスイッチを入れると室内が照らされた。
 長尾警部のあとについて、入室を許可されたのは、シナモンとドロシー博士だけである。もっとも許可されたとしても、シナモンの熱烈ファンである佐藤以外誰も入りたいとは思わないだろうけれど。
 シナモンとドロシー博士は祈りを捧げてから、安置室に入った。

 電球のせいでオレンジ色になってはいるが、実物は白いはずの、壁、祭壇、布を被せた寝台。遺体は寝台に仰向けにされていた。色白細面で、髪の長い----いかにも夢二の絵にでてくるタイプの……女性だった。外傷は、みみず腫れになった首をしめたあとがある。

 ----首をくくったのなら、前しか縄のあとはつかない。遺体は首の後ろにも縄のあとがある。警察のいうように他殺のよう。夢二さんのいうように、自殺ではない。

 シナモンが十五分ほど、死斑の状態、足の裏の状態を観察してから、1階にあがった。ドロシーはそこで大きく深呼吸した。そして遺留品が置いてある部屋にも通してもらった。中庭に臨んだ明るい部屋だ。

 黒岩梅の履いていたのは革の靴である。もちろん洋装だ。和服を想像していたのに少し裏切られた感がある。靴のつま先のほうにはやはり引きずられたような痕跡がある。ドロシー博士がシナモンにささやいた。
「姫様、あなたが川原で、〈異常〉な痕跡をみつけて、私と家宰を現場から遠ざけたのは、そういうことですね?」
「はいそうです。引きずったあとがどこからきたのか、どういうふうに〈軍艦島〉に引き上げたかというのが問題ですね。蔦をつかってようやく登るような絶壁の〈軍艦島〉に引き上げるには、よほどの力がいります」

 クールな瞳をした背丈のあるベレー帽の女性が質問した。
「で? 犯人は川原に複数の足跡を残しましたか? 一人でしたか?」
「一人です。川原には舟をつけたあとがありました。犯人は舟を使っています。このあたりは急流ですからね。手漕ぎのボートではなく、エンジンのついた舟でしょう」
 深縁の帽子を被った若い貴婦人が微笑んだ。その言葉で、ドロシー博士は、おぼろげながら犯人像が浮かんできたようだ。

 ----筋肉質の男。エンジンのついた舟を操れる。

 シナモンは靴についた微細な砂礫を採取した。犯人が黒岩梅を殺したときに遺体を引きずったつま先部分に刺さった砂礫、それから、黒岩梅自身が生きているときに本人があるいてついたかかとの砂礫。……これをピンセットで採取して小さなガラスケース〈シャーレ〉に収めた。

 家宰に、佐藤・中居、それに萩原兄妹は、玄関先の待合室に移動して、煙草をふかしたり雑談していたりした。シナモンがくるなり、佐藤に、
「このあたりの地質学、とくに岩石に詳しい専門家はいらっしゃいませんか?」
 と訊ねた。佐藤は電話を借りてすかさず本社スタッフに問い合わせをすると、喜々としてメモをシナモンに渡したのだった。シナモンは礼をいって、メモを家宰に渡した。
「家宰、地質学に詳しい教授のところに行って欲しいのです。佐藤様、中居様、家宰は日本語が達者ではありません。申し訳ないのですが通訳をお願いできないでしょうか?」
「はい、喜んで!」
 中居は佐藤の顔をみた。声の元気良さとは裏腹に、落胆の様子が瞳ににじんでいる。

 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

後 記

 ここは、怠け者の自作作家を収監する、株式会社雑誌『東京倶楽部』社員保養所〈イゼルローン山荘〉である。収監された自作作家はどんなに遅筆であろうとも猛スピードで作品ができていくという噂があるところである。
 とつぜん、分厚い防弾ガラスできた壁窓を叩く音がした。

 ごんごん

 佐藤・中居が立っている。
「あっ、スイーツマンが、こっちをみましたよ、先輩----」

(わしゃ、動物園の珍獣か!)

(《どこまでも》つづく……)

.

 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

.

コメント 

アバター
2009/12/03 04:24
もけもけ 様

後記は読まないでけっこうです。本編を読みましょう。(笑)

アバター

2009/12/03 04:23
藍姫 様

 自殺説は通用しないですね。夢二、ピンチ。
 そう佐藤・中居の命運は実は私が握る。ふふふ。(あ、佐藤がこっちみた)

 餌を与えないでください。ほんとだ、書いてある。 
アバター
2009/12/02 22:46
物語の後にやってくる、雑誌『東京倶楽部』社員保養所のくだりが面白いですね

もけとしては、ついそちらに目が・・・

あ、本編本編(笑)

アバター

2009/12/02 22:41
首を絞められて、か。
何も取っ掛かりがない所で、自分では締められないですものね ^^;
うふっ、佐藤さん、残念でしたねぇ~ ^^
キャストの運命を左右するのは、作者の特権ですからw

珍獣……。
きっと“餌を与えないで下さい”と書いてあったりするんでしょうね ^^;

アバター

2009/12/02 20:15
スイーツマン

 そうでしょう。たぶん。(←意味を理解していない)

アバター

2009/12/02 20:08
コメントありがとうございます・・・
♪はぁの頃は ふたりとも~ ・・・もありですね。www

アバター

2009/12/02 18:22
夢二が犯人ではないでしょう。たぶん……。
私の作品ってミステリーの形態をとっているだけで、犯人探しとトリックを重視していなかったりして。(すみません) 
 ----でもまあ、それなりのオチはつけますよ。(笑)

はい、酷い扱いです。いつか毒をもってやります。

アバター

2009/12/02 18:16
BENクー様

まあ、そのあたりは私のコンテンツをご理解なさっているからいうまでもないでしょう。

よいのです、佐藤氏の件は。このへんで作者の立場を利用して仕返ししておかねば。(←パワハラじゃあ)

イベントブログは欠かさない。週末は脱出!

アバター

2009/12/02 18:12
ソラちゃんへ

まだ犯人はだしてません。
これから考えます。(←なんていい加減な ¥^^/)

アバター

2009/12/02 18:10
咲様 

和服を想像していたのに革靴だった。----という表現で洋装が想像できるかなあ、としたのですが、やはりちゃんと文章にうたわないと変でしたねえ。ありがとうございます。つけたしておきましょう。

おでかけの件、了解です。楽しんできてくださいね。

アバター

2009/12/02 17:49
筋肉質の男。エンジンのついた舟を操れる。
が犯人なのですねd((o゚c_,゚o))b
ということは夢二さんが犯人に疑われる確率は(゚Д゚|かなり低くなるのでしょうかね~@
 
な~んか酷い扱いになっていますね。。。
スイーツマンさんΣ(O_O;) 
アバター
2009/12/02 13:09
犯人像が浮かび上がってくるのが今回のポイント・・・
ただ、問題は夢ニを陥れるために行われた殺人なのか、それとも他の目的あってのものなのか・・・
落胆した佐藤氏の思いを置き去りにしながらも事件は真相に近づいてゆく・・・
(…これじゃ、感想ではなく解説ですね。www
後記は・・・ボケ突っ込みでの締め。さて、スイーツマン氏は再び脱走できるのだろうか・・・ですね!www

アバター

2009/12/02 11:26
----筋肉質の男。エンジンのついた舟を操れる。

・・が、キーワードですね♪
登場人物の中では・・・ん? 長尾警部・・??? まさか・・・

スイーツマンさん、明日もつづき~~~♪(o^∇^o)ノ
 
アバター
2009/12/02 10:41
姫様からの頼み事に嬉々として応じる佐藤さんが可愛いです。…あ、でも同行するのは家宰殿になのですね。落胆した顔が目に浮かぶよう。
梅さんが和服なのに革の靴を履いていたというのは、今後、事件解決のヒントになるのでしょうか…?
スイーツマンさんがスイーツを口にできるのはいつの日か…。

そんなスイーツマンさんに恐縮ですが、一つお願いが…。
12月5日と6日に、今度は私が友人に会いに神戸へ出向くことになりました。その間にもし参加申請がありましたら、お願いできますでしょうか?

.

 

 

  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※ 

 

. 

ポチボタン

   人気ブログランキングへ にほんブログ村 小説ブログへにほんブログ村

小説・詩ランキング

. 

人気ランキング娯楽部 ※

  http://www.blogmura.com/help/?type=h&no=12http://ping.blogmura.com/xmlrpc/b3byx262eg9q にほんブログ村 




おきてがみ
次の行まで必要
------------------------------

つづきをみる


スポンサーサイト

theme : 小説
genre : 小説・文学

line

comment

Secret

おはようございます

おはようございます。
今日は寒さはどうでしょうかね。

少しづつシナモン嬢の手で解明ですね。
確かに竹久夢二が怪しいと思いますが、優男だし。
荻原も同じで、はて。
ミステリーは最初から犯人は出しておくのがルールでしょうからもう出ているとは思うのですが、さて誰だろう。
ただまだ全くプロローグだし今からでしょうね。

狼皮のスイーツマンさん、こちらこそ失礼しました。
年ばかりとって修行が足りんです(^_^;)

No title

スイーツマン・ウルフレザー……
登場しちゃうんでしょうか? 楽しみにしています。
line
line

line
Google ペイジランク
ページランク-ナビ
line
奄美剣星
line
文鳥貴族
文鳥貴族
line
最新記事
line
「怪盗めろん」

 

line
「文鳥王トリスタン」
 
line
ブクログ
line
小説家になろう
line
amazon書籍
line
アルパカ版の恋太郎です
line
映画『副王家の人々』より
副王家の一族 
line
イアリング
 ekubo
line
チャイナドレス
chainadoress
line
ポーズ
sofa
line
魯迅記念博物館
inu
line
陽だまりの乙女
usagi
line
裸婦
うつぶせのジャスミン
line
sakasu
line
打ち上げ花火をあげられる四季の風景時計
line
PC広告Amazon
line
テーブルと椅子
椅子3   
line
sub_line
プロフィール

奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)

Author:奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)
1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

line
ranking 1
 
line
ranking 2
人気ブログランキングへ
line
置手紙
おきてがみ     
line
Twitter ぼたん
Sweetsman7をフォローしましょう
line
レッドバロン
line
検索フォーム
line
QRコード
QRコード
line
所収作品について
文献・画像等引用の場合は引用元を記載。自作小説倶楽部作品著作権は各著者に帰属。それ以外の文藝作品・絵画写真画像に関する諸権利は当該ブログ管理人に帰属。無断複写転載を禁じます。
line
カジュアルのシナモン
シナモンアップ 
line
リンク
line
マラッカ要塞
marakka
line
珈琲館の割れ甕
城南
line
地図
line
草原の乙女
sougenn
line
バー
eruhurio  
line
海へ行こう
umiheyuku2
line
祖母
  umiheyuku 1
line
洗い髪
araigami
line
癒しの音楽
line
sub_line