伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 紫陽花10(最終回) 恋太郎白書
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

紫陽花10(最終回) 恋太郎白書


史学科での講義で紹介される工芸品などの古い資料は、けっこうな割合で大陸産であったり、その模倣品であったりする。機会があれば是非実物を間近で見たいと思ったものである。しかし紫陽花を交えた恋太郎と愛矢の関係を知る者にとっては、逃避にしか映らなかったのである。

当時のテレビドラマの三角関係というのは主人公の留学で清算されるパターンが往々にしてあった。傍目にみたときの恋太郎がその類といわれても仕方ない。東京港の埠頭に横付けされた船がある。

鑑真号という東京―上海間を結んだフェリーだ。搭乗手続きをした事務所のある白い建物は二階建てだったか、ともかくあまり高くはない。港まで見送りに来てくれたのは愛矢だけだった。小雨が降ってきたので愛矢に折り畳み傘をやる。

「傘は向こうで買うから、さして行け」

「そうか」

「いろいろすまなかった」

「何を謝る?」

「紫陽花さんのことだ」

「ああ、あのことか。気にするな」

愛矢は、ぶっきらぼうに「餞別だ」といって、お気に入りの山高帽を恋太郎の頭に載せた。

「なんだか愛矢がポモリ教授にみえるよ」

恋太郎が笑った。





諸手続きをして出航準備が整ったのは八月になった。出航直前、前日、梨山寮の寮長に挨拶し、それから喫茶店「メランコリー」でポモリ教授や愛矢に会う。電話でときたまやりとりしていた愛矢は、順調というよりは、勤め始めで仕事に追われているといった印象だった。

「人生というのはどこでどうなるのか判らないところがあります。例えば私の控室に出入りしている口髭の教授。私の母親がこの『口髭先生』の母親と親友。いわば彼とは幼なじみなのです。そして彼の奥さんは昔、私とお付き合いしていた女性です」

「『口髭先生』と喧嘩なさらなかったのですか?」
「ああ、したよ。でも男同士の付き合いは恋愛とは別個のものらしい。いまだに奴との腐れ縁が続いている」

ポモリ教授の言葉には嫌味というものがなく、ごく自然に感じたものだった。





恋太郎は中国に渡って数年、日本に帰るまでの間、愛矢と四五回手紙をやりとりした。近況を知らせる文面に「めらんこりい」の常連客たちの話題はあがっていたが、紫陽花の名はなかったので、あえて触れようともしなかった。

数年後、帰国、就職。ほどなく愛矢から招待状が結婚招待状が届いた。もちろん相手は紫陽花。結婚式当日、スーツを着込んで出かける。会場では、似合うはずもない山高帽を頭に載せ新郎新婦と再会した。
 
(「紫陽花」全10話稿了)



【登場人物】

恋太郎《れんたろう》:失恋の天才児。 大学四年生。

愛矢《よしや》:恋太郎の幼馴染みにして悪友。

紫陽花:愛矢の恋人。大学二年生。

麻胡《まこ》先生:恋太郎の妻になる。科学者、元高校教師、仙女の末裔。

寮長:梨山寮の責任者。麻胡先生の伯父。

雫《しずく》:恋太郎の初めての恋人。大学三年の時、ストーカーに殺害される。

ポモリ教授:恋太郎の恩師。考古学者。
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