伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 お爺さんのカヤック2/3  恋太郎白書106
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

お爺さんのカヤック2/3  恋太郎白書106

昔、恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は指を差して恋太郎と呼んだ。花や紅葉が、はらはら、と漂う、そんな若者であった。



恋太郎は、悲鳴をあげ、止まり木にいたメロンが羽ばたいた。カヤックの舳先《へさき》がしぶきをあげる岩にぶつる、刹那、お爺さんは、パドル(櫂)の先端をはげしく岩にぶつけて、カヤックの方向を転換させたのだった。

「びっくりしたあ」

岩から少しくだった川岸に、二人はカヤックを引き揚げ、テントを張った。



川原ではいつくかのテントが張ってあり、お爺さんは手早くテントを立てた。夕刻であるけれども夏の陽射しはまだ残り、水しぶきで濡れた物資を岩に引き揚げて乾かす。

本日の食事は、カレーと缶詰。バーナーで飯ごうをあぶりご飯を炊いた。その間、釣りをして、イワナを2匹釣った。それもバーナーで焙って食べようとしていると、近くで酒盛りをしているキャンプの人たちが声をかけてきた。みかけは山賊のようだったけれど、陽気ないい人たちだ。
 
「炭で焼いたほうが美味いですよ。一緒にどうです」

「これはどうも」

先方がバーベキューを振る舞うので、お爺さんはウイスキーやらつまみを持ってきて、一緒に酒盛りを楽しんだ。また恋太郎と同じくらいの子供たちが何人かいたので、話しをしているうちに仲良くなった




翌朝、お爺さんと恋太郎、それに文鳥のメロンは、テントをたたんで、キャンプを離れた。

カヤックは、中流から下流へとおりていく。川原には石ばかりあったのがだんだんちいさくなってきて、いまではもう砂しかない。跳ねていた魚が、小さいのから大きいのにかわってきた。イワナやウグイだったのが、鮒や鯉になってきた。

「お爺さん、あれは?」
 
「廃線だな。むかし、ここには鉄道が走っていた。撤去しきっておらんのだが、妙な風情があるものだわい」

そんなことを話した。

下流までくると、ジェットストリーム(激流)はなくなり、逆に海風が吹くので漕ぎづらくなる。お爺さんは少し漕ぐのをやめて、なにかを待った。

風が止まったそのときだ。 思いっきり、河口に吸い込まれていくように、カヤックは爆走しだした。

「なっ、なんだか怖いよ。お爺さん」



「引き潮だ。河口まで五キロある。海に流されるなんてありえない。流されたとしても、このカヤックは海にも対応している。心配するな」 

五キロくらいの間には海と川の魚、それに鳥たちが入り交じる。鯉のほかに、体長二十センチほどのボラが水面を飛び跳ね、カヤックの上をまたいで飛ぶ。そのうちの一匹が恋太郎の頭に当たって、舟底に落ちた。

「ボラ・ロケットってあだながある。当たるとけっこう痛いだろ」 

舟底の魚は激しく逆らうので捕まようとすると時間がかかった。恋太郎は、しげしげと手にした魚をみた。 

「食べられるの?」

「ああ、食べられるよ。ただ海でつかまえたのは美味いけれど、川でつかまえたのは油くさくってなあ」 

ボラを水面に逃がしてやる。カヤックはなお猛スピードで一気に河口近くに達した。河口近くでは数メートルあったはずの水面がさがって川底がみえ、泥の上に静止した。小魚たちが跳ねている。ヒラメなんかもいた。

「おじいさん、降りていい?」 

「だめだ。すぐに潮が満ちてくる」 
 
  お爺さんのいうとおりだった。潮はすぐに満ちて湖のようになった。もし降りていたら溺れてしまっただろう。危ないところだ。 

河口はちょっとした湖のようになっていた。僅かな切れ目があって、そこから海に通じている。海岸に寄せる波が、砂で堤防を築いたのだ。カモメが浜辺で休んでいる。文鳥のメロンを籠からだして、少し遊ばせた。メロンはカヤックの周りを何度も旋回、舳先とコクピットを往復して飛んで、満足すると恋太郎の指に停まった。

メロンを再び籠にしまってから、お爺さんと恋太郎は、カヤックを浜にあげ、荷物を降ろしてからひっくり返し、船体の前後をシーソーのように上下させて水を抜く。一時間ほど乾かしてから、解体し、専用バックに詰めた。鞄《かばん》は二袋になる。 

浜辺には民宿がいくつかある。今日はそこに泊まる。カヤックは宅急便でお爺さんの山荘に送ることになっている。明日は土手に停めたワゴン車をとりに、列車で出発地に戻る予定だ。

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