伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 黒竜江6 恋太郎白書96
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

黒竜江6 恋太郎白書96

昔、恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は指を差して恋太郎と呼んだ。花や紅葉が、はらはら、と漂う、そんな若者であった。



恋太郎は夢を観た。小高い丘の離宮にきらびやかな衣装をつけた貴人たちが寄り添って、眼下の大河にひしめく軍船を眺めていた。古い中国の衣装。軍船も帆を張ったジャンク船だ。

老貴婦人がいった。

「もうすぐ大海嘯《だいかいしょう》が起こる。さすれば野蛮国の軍船など、一飲みとなるでしょう」

小鳥の入った鳥籠を持った少年の前に初老の高官が片膝をついた。

「さあ、殿下、参りますぞ。露雫《ロウナ》、殿下の手を引いてゆけ」

露雫とよばれた少女は鳥籠を預かった。少女は初老の高官の孫娘で、少年の身の回りの世話をする役を命じられているようだ。三人は、貴人たちが詰める離宮から離れ、早馬で遙か南方にある岸辺にたどり着く。するとそこには艦隊が停泊していて、三人が乗船するや否や、南方を目指して落ち延びていった。

老貴婦人のいった大海嘯《だいかいしょう》とは、丘の上の離宮が臨んだ河川において、月の引力の影響で起こる海流逆流現象を意味する。決まった時期に起こるのだが、その年はなかった。

王朝の名は宋。皇族は趙氏である。攻めてきた艦隊はモンゴル勢であった。一二七九年、当時の宋の都は杭州にあり、太后が待ち望んだ大海嘯が起こらなかったことで、宋の皇帝は無条件降伏。宋帝国は事実上滅びた。このとき、滅亡を良しとしない朝臣たちが、皇帝の幼い弟を担いで南方の小島「崖山《がいざん》」に要塞を築き立て籠もり、最後の抵抗を行うことになるのだ。



大凰山《だいおうざん》。かつて宋王朝の離宮が置かれた山で、北にある西湖と、南にある大河銭塘江《せんとうこう》を望む場所だ。観光地として特に整備されているというわけではなく、今は畑地と山林しかない。そこの散策路を二人して登っているとき、立ち止まった恋太郎は、昨夜見た夢を思い出していた。するとミス・ダークが小突いた。

「どうしたの、恋太郎?」

「なんでもない」

「また妄想してたな」

「してない、してない」

「変態な妄想でしょ?」

「違う、違う」

「嘘つきは恋太郎の始まり」

恋太郎は目を白黒させて言い訳を始めた。


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