伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 黒竜江1/14 恋太郎白書91
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

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黒竜江1/14 恋太郎白書91

昔、恋をしてふられてばかりいる若者がおり、人は指を差して恋太郎とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂う、そんな若者だった。



一九八九年代上海の街中は、トローリーバス網が張り巡らされていた。路面電車にゴムタイヤをはかせたようなオレンジ色に塗装された車体。二両連結で、電線から電気を引っ張ってきて動力としている。そんな特異な形をしたトローリーバスの一つに恋太郎は乗った。

蒸せた夏の空気。鮨詰《すしづ》めの車体。連れであるブラウス姿のミス・ダークが乗り込むと、恋太郎に抱きつくような恰好になった。

都市の空気にはそれぞれ色がある。大気中に漂う微細な粒子のせいだろう。おそらくは土からきているのだろう。黄浦江は褐色をしている。それを思いっきり淡くしたのが当時の上海の色だった。

「市内にはいたるところに運河があるでしょ。小さな船が往来しているけれど、工場排水なんか排水で黒くなっていているわよね。ヘドロのせいで船が通れないところもある。どっかの国の留学生が、洒落で 『黒龍江』いっていたわ」

一九三〇年で時を止め、化石化したかのような、植民地様式であるくすんだ赤煉瓦の街並みが、窓越しから後方に流れてゆくのが見える。

その人は遠い目をしてつぶやいた。ミス・ダークと呼ぶのは、灰色や黒といった服を好むところにある。恋太郎と同じくらいの背丈のある上海娘で、公園で絵を描いていたとき、のぞきこんできたのが出会いだった。

港となっている黄浦江の外灘《バンド》から、四川北路を北東に進んだ行き当たりに魯迅公園がある。公園には池があって、ボートが浮かべてある。

この時期の恋太郎というのは、壊れかけたところ救い出した麻胡先生に感謝はしていたし、女性として気になる存在ではあったのだけれども、いかんせんアメリカにいるため距離がありすぎる。少しでも雫《しずく》に似た若い女性が現れると、どうしようもなく傾く。いつも派手な衣装をしてるミス・ダークの瞳は、どこか寂しげで、殺されてしまった恋人を思い起こさせてしまうのだ。

恋太郎は学生寮に寄宿していた。ミス・ダークは少し離れたところにある大学の女子学生。家は上海にあるのだが叔父夫婦が間借りしている。というのは、父親が杭州にある大学教授であるため、双子の妹を含めた家族は皆そこで暮らしていた。



チケットを買って、ボートに乗り込む。恋太郎がオールを漕いで、池の中ほどにきたとき、ミス・ダークがささやいた。

「来週、杭州にいる家族のところに帰るの。杭州に行きたいってたわよね。あなたも行かない?」

「判った、行くよ」

「行くというのは、私を愛しているから?」

「もちろん」

暗い褐色に淀んだ池の水面には浮草がびっしりと浮かび、ところどこ水連の花のつぼみが顔をだしている。ボートの舳先に座っているミス・ダークが恋太郎の瞳をのぞきこんだ。

「証明できる?」

「できるよ」

「どうやって?」

その人が悪戯っぽく笑っている。

「池に飛び込む」

「やってみせて」

恋太郎は言葉を違えることなく池に飛び込んだ。周囲にいた地元の家族連れは呆気にとられて水面に顔を出した恋太郎を見つめていた。



【脚注】

恋太郎:大学卒業後、
     上海の大学の私費留学生となる。

ミス・ダーク:上海在住の女子大生。

麻胡先生:恋太郎の高校時代の化学教師で
       仙女の系譜である。

雫《しずく》:恋太郎の初めての恋人。
       大学在学中、ストーカーに殺害された。

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