伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 方舟のファイサル全14話稿了 恋太郎白書88
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

方舟のファイサル全14話稿了 恋太郎白書88

むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は指を差して恋太郎《れんたろう》とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのようだった。



Salut, Shanghai.(はじめまして、上海)

一九三〇年代に建設されたアールデコ様式の、刃物の先端を天に突き立てたかのようにシャープな線を強調したビル建築群。上海大厦《シャンハイダーシャ》もアールデコ様式の代表建築の一つだ。天上に挑戦するバベルのように上海にそそりたつ上海大厦。手前の波止場に鑑真号は横付けされた。 

もともとフェリーである鑑真号からコンテナで囲われた物資が降ろされていく。上海雑伎団のパンダに続いてサイドカー仕様のBMWオートバイ三台もでてきた。乗っているのは六人。ファイサルと婚約者である二人の女性、そして「兄弟」の三人だ。

昼近く、事務的で味家のない低いコンクリートビルの税関を抜けて、恋太郎たちは記念撮影をした。鑑真号で最初に彩乃に声をかけた伸一がカメラをもって、恋太郎と彩乃に、「もっとくっついて」といってはしゃいでいる。口髭の音楽家が二人の後に立って肩に手をやり、横には明がいて音楽家の肩に片手をやり、残る手でVサインをしていた。みんな笑顔だ。

口髭の音楽家が、「食事、おごるよ。上海大厦の一階には和食レストランがあって和風のカレーをだしているんだ。いきなり中華料理を食べると胃袋がびっくりするから、僕はまずはあそこでならすようにしている」といった。

そこへサイドカーのオートバイがやってきて止まって、ファイサルが降りてきた。このときコクピットから棒のようなものを引っ張り出したのだった。

(自動小銃か? まさか、そんなもの。なんで持ちこめたんだ!)

靴音を鳴らしてファイサルは、恋太郎と彩乃の前に立った。いったい、どうなるというのだ。誰もがそう思ったとき、ファイサルは手にした「自動小銃」を向けた

だっだっだっだっ。

途端、それは、ぱっ、と開く。

「あいあい傘。面白い絵になるから、プレゼントとするよ


皆が腰をぬかさんばかりになるなか、ファイサルはサイドカーのコクピットに収まった。三台のサイドカーは、税関から始まる大名路を走り、ロシア領事館前と上海大厦で辻となる四川路を左折。上海ブリッジを渡って、バンドと呼ばれる昔日の金融街に消えてゆく。

上海からおよそ一万キロも西に行けばファイサルの故郷レバノンにたどり着く。あのままBMWに乗って、あの小さな「国家」は祖国にたどり着くのだろうか。ファイサルなら夢をきっとかなえることだろう。恋太郎はそんなふうに考えるのだった。
 



後日談。

彩乃は恋太郎と半月ほど上海で過ごし帰国した。しばらく電話や手紙をやりとりしていたが関係は自然消滅。風の噂によると彩乃は、ファイサルを追って自らの意思でレバノンにいく飛行機に乗ったという。
それもまたよいではないか。人生、ハッピーエンドばかりではつまらない。

年が改まり恋太郎も帰国し、ごくふつうの社会人になった。恋太郎は落ち込むことがあるとファイサルから貰った傘を自動小銃にみたてて、「負けんぞ」と叫んで部屋の窓ごしに臨む月を撃ったものだった。

ファイサルとの出会ったことで恋太郎は、雫を失ったときよりも強くなった。

残業が続いた春先のこと。出勤の直前、前の晩に確認しなかったアパートの郵便受けをのぞきこむと国際郵便が届いている。アメリカに滞在している麻胡先生からのものだった




「お久ぶりですね。私はいまNASAで無重力訓練中。乗り込んだ飛行機が急降下する数十秒、無重力《ゼロジー》となるのです。教官がいうには、本物の宇宙というのは、『こんなものじゃない』というので、『違うのなら初めからしなければいいのに』と、仲間たちと突っ込みをいれてしまいました。教官の困った顔といったらなかったわ。
 追伸。恋太郎君、あなたにあいたいです。(麻胡)」


  
(稿了)
スポンサーサイト

theme : 自作連載ファンタジー小説
genre : 小説・文学

line

comment

Secret

No title

良かった。どうなる事かと、思いましたが、
恋太朗さんが、生きていて・・・

命をかけても、簡単に、別れはやってくるものなのですね(笑)

これが、人生なのでしょうね??

くろこ姫様

冒頭にあるように、恋太郎は、
恋をしてはふられたばかりいる若者ですので。
こういう危ない体験が
最後にして最愛の人となる麻胡先生を守ることに
つながる、というわけです。
line
line

line
Google ペイジランク
ページランク-ナビ
line
奄美剣星
line
文鳥貴族
文鳥貴族
line
最新記事
line
「怪盗めろん」

 

line
「文鳥王トリスタン」
 
line
ブクログ
line
小説家になろう
line
amazon書籍
line
アルパカ版の恋太郎です
line
映画『副王家の人々』より
副王家の一族 
line
イアリング
 ekubo
line
チャイナドレス
chainadoress
line
ポーズ
sofa
line
魯迅記念博物館
inu
line
陽だまりの乙女
usagi
line
裸婦
うつぶせのジャスミン
line
sakasu
line
打ち上げ花火をあげられる四季の風景時計
line
PC広告Amazon
line
テーブルと椅子
椅子3   
line
sub_line
プロフィール

奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)

Author:奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)
1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

line
ranking 1
 
line
ranking 2
人気ブログランキングへ
line
置手紙
おきてがみ     
line
Twitter ぼたん
Sweetsman7をフォローしましょう
line
レッドバロン
line
検索フォーム
line
QRコード
QRコード
line
所収作品について
文献・画像等引用の場合は引用元を記載。自作小説倶楽部作品著作権は各著者に帰属。それ以外の文藝作品・絵画写真画像に関する諸権利は当該ブログ管理人に帰属。無断複写転載を禁じます。
line
カジュアルのシナモン
シナモンアップ 
line
リンク
line
マラッカ要塞
marakka
line
珈琲館の割れ甕
城南
line
地図
line
草原の乙女
sougenn
line
バー
eruhurio  
line
海へ行こう
umiheyuku2
line
祖母
  umiheyuku 1
line
洗い髪
araigami
line
癒しの音楽
line
sub_line