伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 方舟のファイサル12 恋太郎白書86
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
line

方舟のファイサル12 恋太郎白書86

むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は指を差して恋太郎とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。 



「レンタロー、アリストレスよりも、プラトンが好きなようだな」

ファイサルは計算をやめてノートを閉じ、古代ギリシャの哲学者二人の名前をあげて白い歯をみせた。アリストレスはマケドニアのアレクサンダー大王の師で現実主義者、プラトンはアリストレスの師で理想主義者だ。

ファイサルの横には残った一人の「兄弟」がいた。「兄弟」はポシェットから折り畳み式の櫛のようなものをとりだした。

(バタフライ・ナイフ!)

「人の女を奪えば死を覚悟するのは当然というもの。コーシロー、君には選択権がある。サムライのようにナイフで腹を切るか、あるいは、海に飛び込むか。任せるよ」
 彩乃が、「やめてーっ」と叫ぼうとしたが、すばやく、〈兄弟〉が後にまわって口を塞いだ。

ファイサルは、いまいった言葉に取引条件をつけてきた。

「ナイフで自決するということは海に飛び込むよりも勇気がいる。もしナイフで自決したら、彩乃から手を引こう。海に飛び込んで死ぬか、あるいはナイフで自決するか」

恋太郎はナイフをとった。彩乃は、口を塞がれたまま《兄弟〉の腕の中でもがいている。

走馬燈《そうまとう》というのは封印していた一生涯ぶんの記憶が、死ぬ間際に、いっぺんに噴きだす現象で、出会った人たち、自己の体験が、早送り画像のように瞼《まぶた》に浮かぶ。

自殺願望はあったが、やはり死ぬ間際には大汗をかいて震えが止まらない。失禁しなかったのが幸いだ。



七五三のときは母に連れて近くの神社に参拝した。出店で綿菓子をかってもらい喜んだ。学校入学したとき桜はまだ咲いておらず、担任が黒板に描いて祝ってくれた。

中学では、先輩にトイレに連れ込まれ、何発かくらった。

絵画コンクールに何度も入賞。広告会社就職を希望したが、親族に説得され上京して大学に入った。
 ただし美大ではなく、たまたまみた映画インディージョーンズに憧れて史学科のある大学にはいった。

恋した女性たちも次々と現れては消えた。

姫林檎《ひめりんご》、桜《さくら》、蛍といった幼なじみたち。オレゴン嬢、美咲《みさき》は恋というよりは好意の感覚。擦れ違いだった黒髪のアテナ。

目を離した僅かな隙に、ストーカーに刺されてしまった初めての恋人、雫《しずく》。

自分の道を進みながらも、いつも心配りをしてくれた高校時代の恩師でオレンジの香りを漂わせていた人、麻胡《まこ》先生。

そして最後に、港まで送りにきてくれた口の悪い同期の愛也《よしや》の顔が浮かんだ。クリスチャンの愛也がいうと説得力があった。


「いつもそうだよなあ。恋太郎、どうやったらそんなふうに馬鹿になるんだ?」 

そんなときは、こう答えたものだ。

「ああ、馬鹿だよ。救いようのないのがチャームポイントかな」
 「また開き直っていやがる」
 学生時代は、ことあるごとに同じ台詞を繰り返していたものだった。



恋太郎は、ファイサルがどいたベンチに、バタフライ・ナイフを握った両手を置いて、その上から勢いをつけて身体を落とし込んだ。

がつん、という衝撃が上半身に走った。恋太郎の膝がデッキの床にがくんと落ちにぶい痛みもやってきた。
 

「恋太郎――」

何人かが同時に叫ぶ声がした。伸一に明、それに口髭の音楽家の声だ。

「昨日の夜に忠告しただろう、彩乃さんにはもう近づくなって。こんなことになってしまったじゃないか」

ファイサルが甲高く笑い、だらりと腕を落とした恋太郎を抱きあげ、「おまえは馬鹿だ。だがそういうところが好きだ」と耳元にささやき、額に祝福の口づけをしたのだった。
スポンサーサイト

theme : 自作連載ファンタジー小説
genre : 小説・文学

line

comment

Secret

line
line

line
Google ペイジランク
ページランク-ナビ
line
奄美剣星
line
文鳥貴族
文鳥貴族
line
最新記事
line
「怪盗めろん」

 

line
「文鳥王トリスタン」
 
line
ブクログ
line
小説家になろう
line
amazon書籍
line
アルパカ版の恋太郎です
line
映画『副王家の人々』より
副王家の一族 
line
イアリング
 ekubo
line
チャイナドレス
chainadoress
line
ポーズ
sofa
line
魯迅記念博物館
inu
line
陽だまりの乙女
usagi
line
裸婦
うつぶせのジャスミン
line
sakasu
line
打ち上げ花火をあげられる四季の風景時計
line
PC広告Amazon
line
テーブルと椅子
椅子3   
line
sub_line
プロフィール

奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)

Author:奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)
1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

line
ranking 1
 
line
ranking 2
人気ブログランキングへ
line
置手紙
おきてがみ     
line
Twitter ぼたん
Sweetsman7をフォローしましょう
line
レッドバロン
line
検索フォーム
line
QRコード
QRコード
line
所収作品について
文献・画像等引用の場合は引用元を記載。自作小説倶楽部作品著作権は各著者に帰属。それ以外の文藝作品・絵画写真画像に関する諸権利は当該ブログ管理人に帰属。無断複写転載を禁じます。
line
カジュアルのシナモン
シナモンアップ 
line
リンク
line
マラッカ要塞
marakka
line
珈琲館の割れ甕
城南
line
地図
line
草原の乙女
sougenn
line
バー
eruhurio  
line
海へ行こう
umiheyuku2
line
祖母
  umiheyuku 1
line
洗い髪
araigami
line
癒しの音楽
line
sub_line
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。