伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 プロローグ 恋太郎白書73
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

プロローグ 恋太郎白書73

むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎《れんたろう》とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。 



「君はどこからきたの?」

少女が恋太郎に訊いた。住所をいったのだが、「そういうとことじゃなくて」と横に首を振る。

少年時代の夏のことだ。地域サークルの催しで、子供たちばかりを誘った海水浴があった。指導員は、「このあたりの海は波が荒いから、海面が腰くらいになったら、それより先にはゆくなよ」と忠告した。

ほかの子供たち同様に恋太郎はよくいうことを訊いた。浜辺で寝そべっていると、中学生くらいの少女がやってきて、「砂をかけてやろうか?」と声をかけてきたので、その言葉に甘えることにした。

淡く霞《かす》んだ空。潮騒《しおさい》、鴎《かもめ》と人々の声。砂をかけてくれる年上の少女をずっと見上げていた。祖母や母に連れられて女湯に入るのを嫌がる年頃。嫌っているようでいて、異性というものが気になりだす、微妙な境界線に恋太郎はいた。長い髪の切れ長の目をした少女だった。水着ごしに認められる膨らみ始めた胸とその谷間。くびれたところ、大きくなりかけた腰。太腿。右太腿の内側に星の形をした小さな痣《あざ》がある。

「それは何?」

「約束の印」

「約束ってどういうこと? 小姐《おねえ》さんは誰?」

恋太郎は少女の問いに答えられなかったし、少女も笑ってこちらの問いには答えなかった。



どのくらいの夏が巡ってきたのだろう。浜辺で出会った少女によく似た子供がやってきて、砂に寝転んで空をみていた恋太郎の顔をのぞきこんだ。

「砂をかけてやるね、父さん」

幼い息子の右太腿には小さな星の形をした痣があった。波打ち際から手を振って呼ぶその人の声。約束は果たされた。謎かけを今なら答えることができる。そう、自分は海からやってきた流星の子孫であるということを。


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genre : 小説・文学

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