伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 馬鹿野郎と叫んで海辺を走ること3/3 恋太郎白書68
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

馬鹿野郎と叫んで海辺を走ること3/3 恋太郎白書68

むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎《れんたろう》とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。 



逆立ちしてももてない若者が、どういうわけだか、出会ったばかりの女性に背中を抱かれる。夏夜が、「せっかくだから、前をむいてみて」というので、いわれたとおりにする。二人ともTシャツにジーンズという格好だ。夏夜の乳房がTシャツ越しに触れる、というより押し付けられる。心臓の音が共鳴しだした。

「これぞ、ハーモニー。恋太郎君のおかげで夏風邪をひかずにすみそう。お礼にキスしてもいいよ」

「えっ、ああ、そんなあ」

「ウブねえ。これはお姉さんが生活指導しなくっちゃ、いけないな」

しばし恋太郎で暖をとった夏夜が再び歩き出し、冷えてくるとまた暖を取る。それを夜まで繰り返しているうちに、胸のあたりだけでは乾いてきた。

「私の父さん。五月に死んだの。稼業を継がなくちゃ。大学に休学届けだして、つきあっていた彼とは強引に別れたんだあ。自分で自分に恋愛禁止令強制送還したのよ。もちろん後悔なんかしていない。でもねほんの少しだけ神様におねだりしてみたくなったの。ああ、神様というより恋太郎君にだな、この場合は」

「どういうことです?」

「恋における断食《ラマダン》。そのまえに『青春』ってやつをエンジョイしたいじゃない」

「無差別ですか?」

「失礼な、私だって、男をみる目をもっているわよ」

夏の夜明けは早い。四時を回ったあたりで明るくなってきた。平潟港のある海に突き出した岩塊を切り通したところが勿来の関だ。そこを越せば陸奥《みちのく》となる。いわき市の南端である勿来海岸。道路際に沿って築かれた防波堤の上をジャンケンしながら二人で歩く。

朝焼けの海辺。防波堤に掛けられた梯子をつかって砂浜に降りた二人は波間に走り、せっかく乾きかけた服をまた濡らし海水を互いにかけあう。

「私さあ、一度やってみたかったのよ。森田健作主演のテレビドラマとかでさあ、海辺を走って、馬鹿野郎とかやるでしょ。ねえ、一緒にやらない?」

「やりましょう」

「それじゃ、いくわよ」

「馬鹿野郎!」

二人は長く続く海辺を走るに走った。気の済むまで走って砂浜に腰を下ろし、恋太郎の肩を枕にして時間の過ぎるのを楽しむ。

「夜があけちゃったね。『夏の夜の夢』はおしまい」

早六時の列車は特急ひたちで、勿来駅あたりから終点の平駅まで各駅停車となる。二人はそれに飛び乗った。松が丘公園のある物見山を過ぎたところで、夏夜は恋太郎の唇に自らの唇を重ねた。そこから一分もしないうちに駅に着く。プラットホームから改札口に降りたところで、明るく、「じゃあね」と手を振って別れた。一度も振り向かない。(泣いているんだろうか?)と恋太郎は考えた。



かなりの月日が経ち、国鉄平駅からJRいわき駅と名を変えた駅前の広場を歩いていると、選挙カーが停まっていて、ひな壇の上に、Tシャツからスーツ姿になってはいることを除いては、変わらない、その人がいた。

(頑張れ)


  稿了



ただいま恋太郎シリーズは、原稿用紙三百枚相当、五百頁をめざして不足エピソードを加筆中です。
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