伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 馬鹿野郎と叫んで海辺を走ること1/3 恋太郎白書66
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

馬鹿野郎と叫んで海辺を走ること1/3 恋太郎白書66

むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎《れんたろう》とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。 



JRいわき駅が、国鉄平駅といわれていたころの話だ。大学が夏休みになった。毎度のこと、帰省のときは常磐線を下って平駅で下車するのだが、思い立ったが吉日、時刻表など観ないで電車に乗る性分なので、案の定、各駅停車の終電は、途中の高萩駅で止まった。

類は友を呼ぶもの。真夏の夜にであった人なので、仮に夏夜《なつよ》としておこう。列車の席の隣にいた女子学生であった。上野駅をでたときは満席だったのが、取手、土浦でだんだん減り、水戸でがらがらになる。日立を過ぎたら車両にいるのは二人だけ。恋太郎はリュックから缶珈琲を二本だして、一本を彼女にやったことから、親しくなった。

駅待合室は、現在こそ浮浪者対策で追い払われるが、当時は駅の待合室で寝て、始発を待つことができた。そうはいってもなんだか退屈なもの。

「ちょっと駅前をぶらついてみない。旅館とかは高そうだし、オールナイトをやってる映画館とかあるといいのにね」

高萩はかつて、石炭業で栄えた町だが、いまは衰退して見る影もない。居酒屋から、客たちと酌婦さんの掛け合い歌のようなものが聞こえる。

「はっ、みせて」

「みせない」

陽気だが延々と繰り返され、なにやら悲しい感じがしてきた。映画館などというものは、とうの昔に閉鎖されていた。

「よし、歩こう」

「あの、ここから平駅まで五十キロ以上ありますよ」

「だから歩くのよ。途中で朝になって、始発に乗れたら乗れたでいいじゃない」

夏夜に引きずられるように、恋太郎は駅を出て、太平洋の海岸沿いを線路に並行する国道6号線を徒歩で北上することになった。

(つづく)



ただいま恋太郎シリーズは、原稿用紙三百枚相当、五百頁をめざして不足エピソードを加筆中です。


 

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