伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 「業平のベルト」 遺跡発掘調査員恋太郎VOL.6
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

「業平のベルト」 遺跡発掘調査員恋太郎VOL.6

【本編】

 むかし間違って遺跡発掘会社に入社した若者がおり、人は彼を指さして調査員恋太郎と呼んだ。いつまでたっても給料が上がらないそんな業界にひっそりと生息する若者だった。



今は渋川市の一部になった子持村には、日本のポンペイといわれる黒井峰遺跡がある。日本のポンペイといわれる由縁は、群馬県の真ん中あたりにある榛名山という活火山が原因だ。榛名山は、ときたま小爆発を繰り返す活火山で、六世紀に二回の大爆発を起こしている。軽石に火山灰、それに火砕流といったもので山麓に散在する集落や耕地を、すっぽり覆った。


 
黒井峰遺跡は、当時被災した集落の一つで、六世紀中ごろの第二回噴火にともなう軽石層の下から発見された。住居、倉庫、家畜小屋、醸造小屋といった一戸をなす遺構群を囲む垣根跡なんかが、被災したままの状態で残っていたのだ。住居は、圧潰した藁葺屋根、立てた状態で残る壁材や柱材、垣根なんかも残されていた。

遺跡調査会社社員である恋太郎は、黒井峰遺跡に近いところにある某遺跡に派遣された。まず蒟蒻畑《こんにゃくばたけ》の耕作土をユンボで剥いだところ、直下に、千年ほど前の、奈良・平安時代の集落をみつける。その下には、黒井峰遺跡と同じであるお目当ての千五百年前の集落が眠っている。子持村に限らず、奈良・平安時代の集落跡は、風化により遺存状態が悪く、基礎構造ぐらいしか残ってはいない。
 (お楽しみは、また次に)とばかりに、手早く調査を終わらせようと目論んでいた。

軽石層を数メートル幅の方形に掘り込んだ竪穴住居を掘り終えようとしていた時のことである。

 
「先生、これ、最近のゴミだよね」

 
作業員の一人が、含み笑いして手のひらに載せた金属をみせた。

 「えっ、それ、大変なものだよ。原位置を動かしちゃ駄目じゃないですか」
 

金属片はベルトのバックル。奈良・平安時代の役人が使っていたもので、素材をみれば用いた人の階級が判る。青銅に金メッキをしたものが五位以上の上級職、蛇紋岩を使ったものが六位以下の下級職である。五位といえば殿上人《てんじょうびと》と呼ばれる貴族だ。

恋太郎はそこで、『伊勢物語』の一節を連想した。
 



皇統直系である高貴な血筋の割に不遇な扱いを受けている貴紳がおり、年若い令嬢と恋仲となった。駆け落ちを試みるが、令嬢の兄弟に阻まれて成し遂げられず、やがて令嬢は天皇の后となる。貴紳は失恋して都落ちし東国を彷徨《さまよ》うという一節がある。そこを「あづまくだり」という。主人公はぼかして描かれてはいるが、どうやら天才歌人にして、絶世の美男子、在原業平《ありわらのなりひら》ではないかといわれている。

 


業平は、都のある山城から、一路東に向かって近江、伊勢、尾張、三河、駿河、相模、上総を経由して武蔵《むさし》に至る東海道。武蔵から中山道を北上して上野《こうずけ》、西に戻って信濃へ行き、また東に戻って、陸奥《むつ》へ行く。
 

迷走の旅路の途中である信濃の国府に立ち寄ったときのこと。業平はと地元良家の娘に一目ぼれをした。絶世の美男がいい寄ったのだから娘が愛に溺れぬわけはない。娘の母は藤原氏の分家筋で貴族であり、貴風漂う業平を婿に所望したが、父親は地元の豪族だった。父親は勢力拡大のため、実力のない流浪貴族よりも、近隣の有力豪族に娘を嫁がせることを望んで許さないため、業平は娘と駆け落ちしたのだった。

 「武蔵まで逃げよう」
 

娘の父親は、業平を、「娘を奪った盗人《ねすびと》だから捕えてほしい」と国司に訴えた。国司は追っ手を差し向ける。

二人は追い詰められ草むらに身を隠す。追っ手たちが、

「ここの草原にはよく盗賊が潜んでいるとのことだ。例の盗賊も潜んでいるに違いない」といって火をつけようとした。

話を訊いて困った娘がしくしく泣きだしたので、二人は捕まってしまった。

 
娘から引き離される間際、業平は、「形見だ。これを私と思うがよい」といって身に着けていたベルトを与えた。役人たちが娘を親元に護送しようとしたのだが、娘は悲嘆のあまり倒れてしまい、国府に至る街道から離れた山里の東屋《あずまや》で息をひきとる。その手にはベルトが固く握りしめられていた。

 


恋太郎の肩を調査団長が叩いた。
 

「ここの集落跡は十世紀だよ。業平の時代より百年後だ。律令制が緩んで、地元の豪農なんかが製鉄を盛んにやりだし、本来殿上人にしか許されていない金メッキのバックルなんかもモグリで作ってしまう。
 そんなことより、恋太郎君。ぼうっとしていないで、作業員さんたちに、次の指示をだしてやってくれないか」

「すっ、すみません」 

遺跡を前にして、恋太郎の妄想は止まらない。


【ワンポイントアドバイス】 

お仕事は集中してやるのが効果的です。

ではまた。

 「アディオス!」

スポンサーサイト

theme : 自作連載ファンタジー小説
genre : 小説・文学

line

comment

Secret

No title

遺跡の発掘調査って、ロマンがありますよね・・

昔の物語を知っていると、余計に、あれこれ、
想像して、楽しくなってしまいます。(*^_^*)

くろこ姫様

毎度しょうもない物語におつきあい戴き感謝します
おっしゃるように
古典内容と遺跡の状況を重ねると趣深いものがあります

No title

とても洒落たお話ですね。素敵だと思います。
伊勢物語は好きで、読みました。
スイーツマンさんのお話は、面白いのでついつい夢中になっ
てしまいます。
どれも本当に、良くできています。益々素晴らしい作品を
書いてください。

michi様

michiさんには
いつも励まされ創作意欲を高めさせていただいております
ありがたき幸せ。今後とも宜しくお願いいたします。
line
line

line
Google ペイジランク
ページランク-ナビ
line
奄美剣星
line
文鳥貴族
文鳥貴族
line
最新記事
line
「怪盗めろん」

 

line
「文鳥王トリスタン」
 
line
ブクログ
line
小説家になろう
line
amazon書籍
line
アルパカ版の恋太郎です
line
映画『副王家の人々』より
副王家の一族 
line
イアリング
 ekubo
line
チャイナドレス
chainadoress
line
ポーズ
sofa
line
魯迅記念博物館
inu
line
陽だまりの乙女
usagi
line
裸婦
うつぶせのジャスミン
line
sakasu
line
打ち上げ花火をあげられる四季の風景時計
line
PC広告Amazon
line
テーブルと椅子
椅子3   
line
sub_line
プロフィール

奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)

Author:奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)
1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

line
ranking 1
 
line
ranking 2
人気ブログランキングへ
line
置手紙
おきてがみ     
line
Twitter ぼたん
Sweetsman7をフォローしましょう
line
レッドバロン
line
検索フォーム
line
QRコード
QRコード
line
所収作品について
文献・画像等引用の場合は引用元を記載。自作小説倶楽部作品著作権は各著者に帰属。それ以外の文藝作品・絵画写真画像に関する諸権利は当該ブログ管理人に帰属。無断複写転載を禁じます。
line
カジュアルのシナモン
シナモンアップ 
line
リンク
line
マラッカ要塞
marakka
line
珈琲館の割れ甕
城南
line
地図
line
草原の乙女
sougenn
line
バー
eruhurio  
line
海へ行こう
umiheyuku2
line
祖母
  umiheyuku 1
line
洗い髪
araigami
line
癒しの音楽
line
sub_line