伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 麻胡先生のこと6 恋太郎白書63
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

麻胡先生のこと6 恋太郎白書63

むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎《れんたろう》とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。 



部屋のロフトを物置にしており、数年前まで文鳥のつがいがいた巣籠がひとつ置いていた。文鳥たちは、通勤路の途中にあったペットショップで入手したものだった。

雄は、いつも売れ残り、けっして若くはないのだが、気になって仕方がない。白文鳥の雄の成鳥で、ふつうの個体よりも一回り大きい。艶《つや》のある純白の羽、嘴《くちばし》は赤々として、頬《ほお》はふくらみ、眼差しは鷹のよう。

ある日、小遣いをはたいて「彼」を手に入れアパートに連れ帰った。美しいのは容姿ばかりではなく、歌声も見事で、七八種の声色を変えて唄い、軽やかにステップダンスを踊る。凛《りん》としたうえに見事な唄を披露する文鳥に恋太郎は、准男爵を意味するバロネットと名付けた。

バロネットは、人に媚びない。肩に乗ったり、手に乗ったりもするけれど、社交上の嗜《たしな》み程度のものだった。

(バロネットには友達が必要だろう)

恋太郎は日を改めてまた、ペットショップに脚を運び、幼鳥をみかけた。大きな卓上のガラスケースには三十羽以上の幼鳥がいて、恋太郎がテーブルの縁に立った途端に、餌をねだって、群れて押し寄せてくる。

そのなかに白文鳥がいた。他の幼鳥が歩いてくるところを、最後尾にいたのに、ライバルたちの頭を踏みつけて、第一等でやってきた。人懐っこく、恋太郎の掌で寝るのが好きで、よく瞬きをしたのでウインクと名づけた。

ウインクはバロネットが大好きで、いつも後を追いかけた。一緒の巣にしたら、背中に乗って怒られてもいた。はじめは嫌がっていたバロネットだったが、やがてウインクを受け入れ伴侶とした。 
 
いくつかの季節をめぐり冬となる。籠の中の巣丸はやや小さく、ダンディーは、夜になるとウインクを奥に寝せ、自分は必ず門を守るかのように入り口で寝る。

ある小春日のつづく冬。巣かごが汚れていたので、下に敷き詰めていたミント入りの牧草を交換した。巣丸はバロネットがせっせと運び込んだティッシュで、汚くみえたため、それもついでに処分した。ところがそれが悪かった。ティッシュは防寒のために運んだものだったのだ。
 

急に寒波が襲ってきて、室内の水道すら凍結してしまった明け方、バロネットは命を落とした。生き物が死ぬときは脱糞してはてるのだが、彼の遺骸にはない。羽ばたくような格好で、ふわりと真新しい牧草の上に突っ伏していた。ウインクは巣丸の奥にいたため無事で、バロネットは、ずっと、寒さから守っていたのだ。



バロネットが逝く直前、うたた寝していた恋太郎は、なだらかな丘の斜面に立つ夢をみた。南国の花のような色をした芝草が繁茂しているところだった。

「観たこともない植物だなあ」

恋太郎が、そうつぶやいていると、白髭の紳士が寄ってきて、

「ああ、紅芝《くれないしば》というのですよ」

そこで眼が覚め、彼の死を知るところとなったのである。
色好みで有名な歌人在原業平《ありわらのなりひら》は没後、桜の精となったという伝承がある。白髭の紳士がバロネットであるかどうかは判らないのだけれども、(これから花園に戯れて暮らすのだなあ)ということを感じた。

バロネットの死後、数日、ウインクは半狂乱となって、ふだんとらない行動を多くとった。ほうきの柄についた紐をおもいっきり引っ張ったり、部屋の方々に伴侶の姿を探したりもしていた。それから数年してウインクも旅だつことになる。

何代か文鳥を飼った恋太郎であるが、鷹の瞳をしたバロネットほど印象深い文鳥はいない。



深夜だというのに部屋のドアが激しく叩かれた。

(きたか)

外にいるのが何者かということは判っている。



《関連記事》

拙作、『もう一度妻を落すレシピ』所収、「文鳥王トリスタン」、「鷹の瞳をしたダンディー」、「紅芝の丘」

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