伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 麻胡先生とのこと3 恋太郎白書60
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

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麻胡先生とのこと3 恋太郎白書60

むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎《れんたろう》とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。 



恋太郎は、ついにカヤックを買った。関連グッズまでそろえたら三十万くらいになって貯金が少し減る。高価な買い物は、親友である愛矢《よしや》の影響だ。舟を買った店の紹介で、月二回のカヤック講習を受け、休日には必ずトレーニングをする。半年が経った。

水族館やらホテルなんかが軒を連ねているところから、崖となっている坂を下ってゆくと、防波堤に囲まれた小さな魚港に出る。そこに到る少し手前は、入り江のようになっており、両岸が砂浜になっている。栃木県に発して東流し、茨城県に入り水戸市街地を抜けて那珂湊で太平洋に至る那珂川の終点。そこにオレンジ色のカローラⅡをとめる。荷台からフジタ社製の折り畳みカヤックを降ろし、組み立て、水面に浮かべた。


「車ばかりじゃなく、カヤックまでオレンジなのね?」


「はい。この色が好きなんですよ」


麻胡先生に恋太郎が答えると。その人は微笑んだ。麻胡先生はいつもオレンジのような匂いのする香水をつけている。昔からそうだった。恋太郎は意識しているわけではないのだけれども、高校時代から知っている麻胡先生の香りを覚えていて、大好きなものには、無意識のうちにオレンジ色のものをそろえてしまう。自動車、カヤックの色、展覧会にだす水彩画のモチーフもオレンジだ。


「カヤックといったら、ふつう、川下りでしょう。川上りというのもあるのね」


「満ち潮や、風、それから流れがきわめて緩い清流を利用して、遡ってゆくんですよ」


コクピットの前部席に座った麻胡の櫂《パドル》に合わせて、後部席の恋太郎も漕ぐ。


「へえ、満ち潮ってこんな感じなのね」


少しよどんだ干潟のようになっていた川の水が満ちてきて、だんだん、澄んでくる。逆流する水流に合わせて舟は上流に進んでゆく。だが、櫂を使わなければ目標に向かって進むことはできない。背中を押す力があっても「意志」がなければゴールにはたどり着かない。そういう話を麻胡先生に話すと、「なんだか人生みたいね」といって笑った。


放水路やら潟のようなものが多くある河口は濁っている。濁っているということは、実は生命にとって豊かな証だ。栄養分が多いためプランクトンが多く発生し、餌場として魚が群れをなしてくる。魚がいれば多くの鳥たちもやってくる。鴎《かもめ》、川鵜《かわう》、いつの間にか、それらがいなくなって、白鷺《しらさぎ》やら鴨《かも》といった鳥たちにかわってゆく。岸辺やら流木に止まって羽づくろいしているわきを、ちょこちょこと、鶺鴒《せきれい》が駆けてゆく。

「鳥たちと同じ目線でみるって不思議な感覚。魚も水面を跳ねし、なんだか楽しい」


麻胡の優しさは知っているのだが、きりり、としたところばかりみている恋太郎は、その人の少女のように、はしゃぐところみて新鮮な驚きを感じた。長く葦《あし》の茂みがつづくところを抜けて、砂浜となっている岸辺で昼食をとる。防水加工されたリュックから、サンドイッチとスコーン、それに水筒に詰めた紅茶をだしてランチにした。食休みしてからまた漕ぎ出す。


旅の始まりは鰡《ぼら》が目についていたのだ、折り返し地点である目的地近くになると鯉やら鮎なんかが多くなってくる。ちょうど水戸にあるJRの鉄橋のあたりで引き潮となった。


「引き潮を利用して折り返して河口に戻ろう」

このとき、ジェット機が轟音をあげて空を横切ってゆく。


「国際宇宙ステーションというのを造る計画があるの。いつかそこで仕事をするのが夢」


「そ、そうなんですか。壮大な計画のようですね。でも先生ならできると思いますよ」


カヤックは勢いよく川を下ってゆく。呼吸がだんだんあってくる。二人は巧みに櫂《パドル》を回してカローラⅡを停めた岸辺に向かった。



遅くなった帰り、行きつけのスーパーに寄る。ときどき、つけてくる学生風の男はいなかった。

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