伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 麻胡先生のこと2 恋太郎白書59 
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

麻胡先生のこと2 恋太郎白書59 

むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎《れんたろう》とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。 
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眠れぬ夜だ。大好きな人はアパートの隣部屋にいるのだがキスしたり、抱きしめたりするとことはかなわない。まだまだ馴れ馴れしい間柄ではないのだ。
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寝台《ベッド》に寝転がっていた恋太郎は跳ね起きて、スケッチブックを引っ張り出し、麻胡先生の肖像を描いてみる。写真がないわけでもないが、瞳を閉じてみえる、その人を描いてみたくなったのだ。四B鉛筆で描き、定着液《フィキサーチィーフ》で粉末を糊付け。その上から水彩絵具をあっさりと塗る。傍目にはとくに似ているという代物ではない。
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それからまた瞳を閉じて寝台に潜り込む。そこから、眠りに至る儀式が始まる。とある晩の妄想は、次の日曜日である。
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焼いたトーストに、ベーコンとトマトを載せ、水にさらして辛味を抜いた玉ねぎの微塵切りを載せる。塩胡椒は加えない。蓋をするように、もう一枚トーストを重ねて掌で圧をかけ、二つに切って平面三角形にする。サンドイッチはこうつくる。紅茶は葉を鍋に入れてからケトルの熱湯を入れて四分ほどおき、上澄みを水筒《ポット》に入れたもの。特にしゃれたものというわけではなく、日東とか、ブルックボンドのダージリンとか、アッサムをつかった。バスケットにそれに放り込む。
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アパートの隣部屋から、オーブンの、チーン、という音がした。麻胡先生がスコーンを焼いてくれたのが判る。

恋太郎が外に出て、車の後部座席に水筒とバスケットを置いた。
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「おはようございます。麻胡先生」

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「おはよう、恋太郎君」

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「今日はどこへ?」

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「利根川の土手道を遡れるところまで行こうと思います」
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今はもう生産ラインが止まった自家用車にカローラⅡというものがあった。小型で、外観は軽自動車とあまり変わらない。安月給の恋太郎は、中古店でその車を買った。レーシングカーのような尾翼がなぜかついていた。カラーリングはオレンジである。当時、カローラⅡは街乗りに便利だということで女性に人気で、麻胡先生も黒い色のそれに乗っている。

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秋桜《コスモス》がどこまでもつづく道だった。二人を乗せたオレンジ色のカローラⅡは上流をめざして小さくなってゆく。
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夕方は、近くのスーパーでサンドイッチの具材を買った。よくあることだが、麻胡先生に会って帰り道を一緒に歩いて帰った。気になるとことがある。何度かつけられているような気がするのだ。振り向くと、決まって自分と同じ歳くらいの青年がおり、目が合うと横道に行くのだ。
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恋太郎は、翌日のスーパーからの帰り道、麻胡先生に、「警察に話してみてください」というのだが、「日本ではその手の法律は未整備だから、自分で身を守らないと駄目なのよ。心配してくれてありがとう」と答えた。
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当時、「ストーカー」という用語はなく、ゆえにこの手の犯罪は後手に回り、被害者が殺されでもしない限りは摘発されないというのが実態だった。
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初めての恋人である雫《しずく》は、昔の交際相手に刺され生命を落した。悲しみは永久に癒えるということはなく、何年も経つのにいまだに雫の夢をみるのだ。あの思いは二度と味わいたくはないものだ。(守らねば)。恋太郎はそう思った。

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theme : 自作連載ファンタジー小説
genre : 小説・文学

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あら(´・∀・`)
又、恋太郎さん・・・うれしいわ・・・

麻胡先生守ってあげてね!

(,,゚Д゚) ガンガレ!

くろこ姫様

ブログというのは私にとってメモのようなので、
インスピレーションを書きとめるため、
ときどき順番が乱れます。

お付き合いいただき
とても感謝しております。

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