伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 麻胡先生のこと1 恋太郎白書58
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

麻胡先生のこと1 恋太郎白書58

むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎《れんたろう》とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。 
.

.
恋太郎はコンサートを聴くのが好きだ。町から運営資金を助成された楽団なので、値段は一般の四分の一くらいに抑えられている。値段が安いとマナーも安くなるのだろう、始まりは客たちのおしゃべり、合間に、咳。赤ん坊の泣き声さえする。
.
喧騒の中にあって、
少し離れたところから、オレンジのような香りが漂っていることに気がつく。懐かしい匂い。高校時代、化学を教わった恩師。大学時代は寮の近くの仮住まいにいた、あの人も、オレンジに似た香水をつけていたのを思い出す。

.
上質の音楽というのは酔わせるものだ。多少、行儀の悪い客たちも、だんだんに、奏でられる世界に入ってゆき、静かになる。ほかの客たちとは逆に恋太郎はまた、香水のするほうに目をやるのだが、暗くて誰が身に着けているのだか判らない。

.

.
数日後、コンサートのとき捜していたその人が、車輪のついた大きなトランク一つを押して隣の部屋の鍵を回していた。

.
「あれ、麻胡先生じゃないですか?」

.
「君とはよく会うね」

.
初めての恋人である雫《しずく》を失ったとき、麻胡先生は、彼女の部屋の寝台で、胎児のように、壊れそうな自らの「心」をどうにか守って背中を丸めた恋太郎を、後ろから抱いてくれた。朦朧とした記憶だが、初めての口づけを交わしたのも、そのときのことであろう。彼女が渡米したとき、伯父である寮長を介して、(いつか君は夫になる)と手紙に書いてくれた。忘れずに来てくれたのだろうか。

.
再会の口づけを期待したのだが、予想に反して、切れ長の瞳をしたその人は、「研究機関の出先が近くにあるの。あてがわれた宿舎がここだったのよ」と答えた。

.
恋太郎は、少し落胆して、(やはり、絶望していた僕を励ますために、優しい嘘をついたんだなあ)と思った。

.

.
恋太郎は小さな町の片隅に暮らしている。図書館から本を返しに行った帰り、アパートとの中間あたりにある坂道で、ぽつぽつと降ってきた。濃い雨雲が空を覆っている。

.
(夕立か、天気予報じゃいっていなかった。帰るまでにずぶ濡れだな)

.
そんなとき、どういうわけだか、隣の部屋の住人である彼女がやってきて、「はい」と傘を渡してくれたことが何度もある。高校時代、「麻胡先生のお爺さんは台湾から来た医師で日本に帰化した。仙人の血を引いている。だから麻胡先生は、人の心や未来が判るのだ」という噂をきいたことがある。とはいうものの、高校卒業後、大学進学、就職、三度現れたその人に、やはり「赤い糸」というのを信じてしまう恋太郎であった。




.
恋太郎白書2稿校正中、不足したエピソードがでてきましたので、物語を足しています
。(謝)

スポンサーサイト

theme : 自作連載ファンタジー小説
genre : 小説・文学

line

comment

Secret

line
line

line
Google ペイジランク
ページランク-ナビ
line
奄美剣星
line
文鳥貴族
文鳥貴族
line
最新記事
line
「怪盗めろん」

 

line
「文鳥王トリスタン」
 
line
ブクログ
line
小説家になろう
line
amazon書籍
line
アルパカ版の恋太郎です
line
映画『副王家の人々』より
副王家の一族 
line
イアリング
 ekubo
line
チャイナドレス
chainadoress
line
ポーズ
sofa
line
魯迅記念博物館
inu
line
陽だまりの乙女
usagi
line
裸婦
うつぶせのジャスミン
line
sakasu
line
打ち上げ花火をあげられる四季の風景時計
line
PC広告Amazon
line
テーブルと椅子
椅子3   
line
sub_line
プロフィール

奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)

Author:奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)
1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

line
ranking 1
 
line
ranking 2
人気ブログランキングへ
line
置手紙
おきてがみ     
line
Twitter ぼたん
Sweetsman7をフォローしましょう
line
レッドバロン
line
検索フォーム
line
QRコード
QRコード
line
所収作品について
文献・画像等引用の場合は引用元を記載。自作小説倶楽部作品著作権は各著者に帰属。それ以外の文藝作品・絵画写真画像に関する諸権利は当該ブログ管理人に帰属。無断複写転載を禁じます。
line
カジュアルのシナモン
シナモンアップ 
line
リンク
line
マラッカ要塞
marakka
line
珈琲館の割れ甕
城南
line
地図
line
草原の乙女
sougenn
line
バー
eruhurio  
line
海へ行こう
umiheyuku2
line
祖母
  umiheyuku 1
line
洗い髪
araigami
line
癒しの音楽
line
sub_line