伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 社長からの電話 (シャベル13)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

社長からの電話 (シャベル13)

「お猿さん」は社長夫人に詰め寄った。

「それで、取締役。彼がいなくなったあと遺跡はどうするのですか。会社であそこを掘れる人間はいるのですか。いませんよね、調査を止める必要がありますよね。後任が決まるまで現場作業を中断する必要があります」

「何度もいいますけれど、私は現場のことは判らないので」

私がつくった工程表を連打し、「お猿さん」は怒鳴った。

「それじゃ困るんですよ。社長が入院なされている現在、あなたに決定権があるのですよ」

「すみません、あの、ご教示頂けますか」

「だからそれじゃ困るんだ。教えて欲しいのはこっちなんだから」

「私には判らないので、顧問を呼んできます。」

「お猿さん」の意図は、採算が合うようにするには、遺跡調査を一月に終わらせなければならない。けれども私が抜けることによって調査が遂行できないから止めろ。さもなくば一刻も早く調査員をいれろ。遺跡をみている自分を私の後任しろといっている。だから休日出勤までして、調査を前に進めようとしている私の案に難癖をつけて、ことごとく却下するというわけだ。

こういう目論見は社長が会社にいるときはできない。だから入院した隙をついて私を会社に呼びつけ、実務を把握していない社長夫人を同席させて臨時工程会議をしているというわけである。

「お猿さん」の妻で調査室主任でもある女史も連動していて、「一月中に仕事を終わらせなくてはならないが、休日出勤は禁止する」という矛盾した指示をだしてきたというわけだ。夫妻の悪事がどんどん露見してくる。

別室から社長夫人が顧問を呼んでくると、「お猿さん」は退室した。社長夫人と顧問、それに私が図面と、「お猿さん」が添削した図を広げる。実をいうと、部屋の隅には「お猿さん」の妻である女史がいて、パソコンで書類を打っていた。何やら女史は焦っている様子だ。

顧問がソファの隣に座ると、「それで、契約上の終了日はいつだね」と訊いてきたので、「三月十五日です」と答えた。すると、退室した夫に代わって、女史が机を勢い叩いて怒鳴る。

「おまえら、一体、何ボケかましてんだよ。一月までに終わらせなくちゃならないって、いっているだろうが。担当のあんた、それに取締役、しっかりしてよね」

といってから椅子に座り、声を小さくしてから、「私にこんなことをいわせないでください」といった。女史は何をいっているのだろう、こちらは実務のことではなく、契約期間のことをいっているのに。女史が机をたたいた時、社長夫人は肩で、「ひっ」と叫んでいた。それから女史は立ち上がって、「顧問、あなたのことではありませんよ」と歪んだ笑みを浮かべた。

顧問は文化財担当をしていた元官僚であった。定年退職してから会社に嘱託待遇で入った。官庁とのパイプ役といった天下り官僚らしいことはやらず、遺物の分類と原稿執筆だけをやっていた人である。

「この遺跡、私が引継ぎますよ」

「えっ、顧問には、こないだの遺跡の原稿執筆が残っているでしょう」

「初稿を先方の教育委員会に送付しました。問題ないはずですが」

女史が押し黙った。

顧問の登場は、私が「お猿さん」相手の工程会議の間、想い描いていたクーデターの脚本にはない配役だが、味方には違いない。私は少し筋書を変えることにした。

会議が打ち切られ、別室にいたとき、社長夫人が通りかかった。

「社長から電話です」

(きた)

私は携帯電話を受け取った。

「君に会いたい」

「お見舞いに上がろうと思っていました」

「おお、そうかい。積る話もある」

社長夫人が微笑む。

「社長の見舞いに行きます」

「行ってらっしゃい」

私は社長の入院する病院に車を走らせた。

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