伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 キャスティングボード (シャベル11)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

キャスティングボード (シャベル11)

十二月二十二日の朝はひどい雨であった。宿舎で図面や写真といった資料の台帳作成をしようと、青年と話していた。一方で現場の様子も気になる。私が巡回に行こうとすると、女史から電話がある。

「年末工程のメールが届きましたよ。今日は雨天中止ですよね。今後のこともありますので、本社で打ち合わせしませんか」

猫なで声である。下心まるだしだ。遺跡現場に立ちよって、側道を車で走り、プール状に水がたまった遺跡の状態を確認。それから高速道路インターチェンジのゲートをくぐる。



女史が呼び出したのは、夫の「お猿さん」のこととも関連してくる。社長は胆石手術で不在だ。こういう時期に工程に関して、わざわざ呼び出す理由。私が先に社長に出した退職届と絡んでくるのだろう。理由は家内の病気の都合。この事態は大きな意義を持つ。

難易度が高い低湿地遺跡の後任は「お猿さん」となるであろう。「陸に上がった海賊の城」に何度も脚を運んでいること。二十年間に渡って、低湿地遺跡の多い新潟県で発掘調査経歴があるということ。

しかし「偽井戸」を作ってしまうような「お猿さん」に遺跡を掘る実力はない。また奥方である女史は、現場に必要な最低限の経費まで、自己判断で削ってしまう実は無能者だ。この二人が社長夫妻の次席にいるということは、どう考えても未来がない。私は会社近くに宿舎として借りたアパートに立ち寄り、しまいこんだ不動産契約書を棚から引っ張り出して、助手席に放り込んだ。



昼、会社に到着。ランチタイムなので、女史のいうように、会社で写真写し込み用紙のコピーをまとめてとる。その間、パソコンシステム担当の主任がきたので、外で辞める旨を伝えた。

「そういう理由なら仕方ないですよね。実は私も三月いっぱいで辞めます」

事情はだいたい想像できる。「お猿さん」夫妻がからんでいるに違いない。青年にいわせれば、(システム主任、調査班長、そして私が会社を牽引してきた。このうち一人でも欠ければ会社は終わる)というのに、私に続いてシステム主任まで辞めるのだという。経営破たん以前に、会社は漕ぎ手がいなくなって荒波を乗り切れず巻き込まれて沈むに違いない。

そこに、事務所勝手口のドアが開いて、泣きっ面をした社長夫人が現れた。

「いつのまにこんな会社になったのでしょうね。もう私、死にたい。あの夫婦、情け容赦なく私を攻め立てるのよ。あなたが退職届けをだしたでしょ。旦那さんが正社員になって遺跡担当者になるのを望んでいる。私が頭を下げてくるように仕向けているの。でもそんなことさせないわ。私にだって意地ってものがあるんだから」

女史にそそのかされて、いつも私を攻撃してきた社長夫人が私に泣き言をいっている。こんな会社になったのは、ご自身が、そういう「人材」をポストにつけたからではないのか。女史が暴言・暴挙をしても庇い続け、逆にこちらを、女史と連帯して機銃掃射してきた経緯がある。

私は、笑いがこみあげてくるのを必死でこらえた。棚から牡丹餅とはこのことだ。いま、「お猿さん」夫妻が私の掌《てのひら》にのっかり踊りだしている。

要はこの人、社長夫人次第だったのだ。社長夫人が女史の盾となっていたから私は女史を討つことができなかった。夫人は、私に対して家内のことで同情的であり、実質的に会社を乗っ取った「お猿さん」夫妻を激しく憎みだしている。なにせ独裁者夫婦は最大の庇護者に銃口をつきつけたのだから。

先に出した私の退職届は会社を吹き飛ばす「爆弾」になった。そう、この会社のキャスティングボードが私にあることを理解した瞬間だった。

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