伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 遺跡説明会前夜 (シャベル8)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

遺跡説明会前夜 (シャベル8)

 十二月上旬、十一月に調査に現場で購入した備品、インクリボン、用紙、コピー代、といった項目をパソコンの「エクセル」集計表に記しメールで会社経理に送る。有能であった臨時の経理担当は扶養控除から外れるという理由で退職。後がまは、前述した調査主任の女史が兼務し、パソコンデスクの前に陣取っていた。

書類を送付した休日である翌土曜日の朝、帰宅する直前に、こんな電話を受けた。

「インクリボンに用紙、なぜそんものを買ったのですか。必要があるのですか。コピー代が三百円も何に使ったのですか」

「会社から支給されなかったので、私物ではありますが、パソコンとプリンターを準備して、緊急書類を取引先に送ることがけっこうあります。インクリボンと用紙はそのためのものです。コピーは写真用写し込みに使います」

「管理係と相談しましたか、受理できません。コピーなんてものは、現地着任前に済ませておけばいいことです」

女史はまくし立てて、いきなり電話を切った。

「お猿さん」と「女史」は夫婦である。二人とも修士《マスター》の資格をとっており、「お猿さん」は博士論文執筆中とのことだ。ただ文献史学専攻で考古専攻ではない。社長にはブランド志向があり、二人を雇ったわけであるのだが、「お猿さん」と短期雇用契約を結んでからほどなく、胆石手術のため入院。実質的に、この二人が会社を仕切っている様子だった。私は遠くの現場におり、内情がよくみえない。

(社長夫妻が次席に座らせた夫婦は狂っている。うちのトップはまとめておかしくなった)

帰宅した私は、家内や舅、姑に事情を話し、退職する事情を報告した。「沈むの船なのだから仕方ないことだよ。次の仕事のほう、頑張りなさい」と舅がいい、全員の賛同を得た。



十二月中旬、教育員会から依頼を受けて、遺跡説明会を行うことになっていた。

「社長」と「お猿さん」が起案したパンフレットのレイアウトに、日曜日と深夜早朝を使って記事を埋めてゆく。あいさつ文、城跡のあらまし、発見された遺構と遺物についての記事だ。一般向けにした文章スタイルは、「お猿さん」がやると申し出た。写真は部下の青年が担当する。

会場設営について大まかなプランは、「お猿さん」が設計した。前々日に素材となる順路に立てるピンポールとトラロープ、順路概略図を置いてゆく。その際、彼はこういった。

「本社から俺以外に解説員をもう一人呼んでくる。そいつには石積み井戸を説明させる。俺は最後でオプションの堀を担当させる。カメラ青年にはどこを説明させる。こいつにその能力があるのか。できなければ会社から、また別な要員と交代させなければならない」

私は青年に、「解説する能力がある」と答え、宿舎で、私が書いたパンフレットの草稿を渡すと、彼は翌朝までに暗記し、自分で調べた内容も付け加えたのだった。



翌朝、大まかにピンポールを立ててゆき、熟練した作業員に概略図を示し、あとは任せておく。順路では障害になる柱穴に土嚢袋《どのうぶくろ》で塞ぐ。ピンポールをつないでトラロープを結び、見事な順路をセットした。受付用、遺物展示用、作業員休憩用テントも準備する。

「今、高速に乗ってそっちへ向かってます。順路はセットしたのか」

「セットしましたよ」

「お猿さん」は何かをいおうとして飲み込んだ。

「駐車場は確保したか」

「二十台分は確保してます」

「百台まとめて来たらどうするんだ」

「そこまで考えたませんでした」

「馬鹿かおめえは、考えてねえのかよ。社長以下、ぼんくらばっかだなあ、この会社はよお。それでどう対応するんでしょうか。どうするんですか」

「考えおよびませんでしたのでご指導ください」

答えは出さない。

現地に「お猿さん」がくる。

「百人の客がまとめてくるとき、テント前の小さな広場でどう対応するか考えたか。せめて、西側の調査区を埋戻ししていればなあ」

「では小さい穴を土嚢袋で塞いで、上に板を敷いてみたらどうでしょう」

「どうやったら、そんな馬鹿な発想が飛び出すんだよ。もし板が割れて怪我人がでたらどうするんだ」

「だから、土嚢袋を下に入れるのですよ」

「板が割れないという保証は、根拠は、あなたは、怪我人が出た場合、そういった責任を、取引先である教育員会になすりつけようというのですね」

「お猿さん」は代案を出さない。わめくだけだ。土嚢袋で閉塞した段階でもはや安全だ。板を敷いたら会場が綺麗になるというだけのこと。この男に、いちいち説明するのは面倒になってきた。



現地説明会当日は、午前の部と午後の部に分かれた。午前に五十名、午後に四十名。自治体広報だけでの連絡で、テレビや新聞、インターネットといったメディアを使った周知はしなかったのに、地方都市としては驚異的な見学者数である。

順路は、受付テント、遺物展示用テントを経て、調査区内に入る。調査区内では、池跡、武家屋敷の基礎部分、石組み井戸、そして道路をまたいだ調査区にある外堀の説明地点を巡る。私は、最初での遺跡概略、武家屋敷の説明を任された。
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