伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 沈みかけた船 (シャベル7)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

沈みかけた船 (シャベル7)

抉れた古墳調査から、しばらく間を置いた十月のことだ。入社当初、「いい加減男」を振る舞っていた新人は、低い丘陵地帯に囲まれた小盆地の湿地帯に立地した遺跡を担当することとなった私の部下として配属された。写真撮影や作業員出勤簿をパソコンに打ち直したりするなど、朝から晩までよくやってくれた。

十一月になってから、社長が、「名代だ」といって、臨時雇用契約をした社員を連れてきた。よくわめくので、作業員さんたちは、「お猿さん」と呼ばれていた

「お猿さん」は、禅問答が好きだ。矢継ぎ早に、築城の立地理由、構築方法について私に質問してくる。

数日後、またきた。

「いろいろ訊きたいことがある。まず、前回あんたがやった遺跡の図面やらアルバムがない。どういう管理をしているんだ」

「着任する前日、社長に引継ぎしました。あとは現場にでているので知りません」

「お猿さん」は押し黙った。少ししてから、また別の質問をしてきた。

「溝があるのだが、なぜ掘らない」

「上面に遺物がなく、蛇行する流路の様相、覆土の内容から、他の調査区を広く覆っている、築城以前の河川氾濫による流路と考えますので、掘る必要はないと判断しました。それら流路からはこれまで流木はありましたけれども遺物はまだみつけていません」

「流路下から遺構がでてこないという保証は、根拠は。で、どうするんだ」

「では調査区の北と南にサブトレンチでも掘りましょうか。それで判断しましょう」

「馬鹿か、全部掘らなきゃ意味ねえだろう。ほんと、つかえねえ奴だ」

「社長代理」なる「お猿さん」は、けっきょくのところ、私がいったように、氾濫原流路の南北に、堆積土層を観察用につかう狭長な溝を穿ち、そこに釘で層位を示す線を刻んだ。

人工の溝ではなく、自然流路であるので、写真や実測という記録には、地山の堆積状況も示す必要があり、「お猿さん」の流路に、これを加える。翌日、「お猿さん」がきて、「溝の線が少し違う」といいだしたので、「私が描いた線は『溝』以外の場所ですよ。写真と図面を取り直しますか」と切り返す。

「いや、必要ない」

「お猿さん」は苦笑して、逃げるように隣接調査区に歩いて行った。



電話がかかってきた。部下の青年だ。

「扱ったことがなくて、大型カメラのフィルム装填方法が判りません。教えてください」

「悪いけど、いま手が離せないんだ。近くに『お猿さん』がいるだろうから訊いてくれ」

そういって電話を切る。後で青年がいうには、

「君はカメラ係なんだろ。装填の仕方もしらないのか」

と十五分以上にわたってまくし立ててから、ようやく装填方法を伝授したとのことである。



金曜日の早朝に豪雨があり、雨天中止を教育委員会と作業員に連絡。現地を見回る。それから社長に電話して、「明日の土曜日を振り替えに作業を行います。本日は現場が中止ですから、いっそのこと、本日に振り替えてもらえませんか」と申し出て受託される。

嵐の中の高速道路を縫って会社に到着。会議が始まるや、社長から経営悪化の報告を受ける。「去年の実績が赤字で、銀行が融資しないと通達してきた。経営改善が迫られている。それについて全員の話を訊きたい」というので、部下の青年が憤然と立った。

「ここのところ現場によくくる『社長代理』ってなんですか。ぎゃあぎゃあ喚き散らして仕事になりゃしない。邪魔です。もっと調査担当者を信頼すべきではないですか」

「実のところ、あの城跡はわが社にとって起死回生をかけたドル箱遺跡なんだ。儂は間もなく入院して手術する。調査を一刻も早く終了し、支払いを受けるため、有能なアドバイザーが必要だから、儂に代わって行ってもらった」

不服そうに青年が座った。

次に調査室兼経理主任となった女史が、新入社員以外の社員全員の給与から一割減給の旨を通達する。その上で、女史は私に向かって平伏した。

「昨年やった遺跡のアルバムを整理をしましたが判りません。写し込み方法が悪いからです。すみませんねえ、こんなことはいいたくはないのですが」

(おいおい、会社に未整理のフィルムが山積みされていた。遺跡を知らない人が整理するといっても無理だ。そういうところが無駄なんだ。それを口に出したら、集中砲火だろうけど)

社長夫人が立ち上がり、「この際、退職希望の方はどうぞ」といって、「明日、土日に出勤して、アルバムをやりなさい。給料は支払いませんけどね」とまくし立てた。

(へえ、アルバム整理の仕方が悪いので、会社が傾いたとでもいうのですね。かかる事態の全責任は私ですか)

会議後、社長に再度、「明日の土曜日は出勤日です。百キロはなれた会社まできてアルバムを整理するにはロスタイムがありすぎますので、宿舎に持ち帰らせてください」と伝える。

「家内はああいったけれど、複数の調査員がいて混乱したんだ。解雇した奴がいただろ。あいつのが一番ひどかった。第一番に調査班長にやってもらっている。君はその次にみてやってくれればいいよ」

帰り際、青年は、「余計なことをいいましたかね」といったので、「いや間違っていない。ああいってくれたことを感謝するよ」と答えた。

スポンサーサイト

theme : 自作連載ファンタジー小説
genre : 小説・文学

line

comment

Secret

line
line

line
Google ペイジランク
ページランク-ナビ
line
奄美剣星
line
文鳥貴族
文鳥貴族
line
最新記事
line
「怪盗めろん」

 

line
「文鳥王トリスタン」
 
line
ブクログ
line
小説家になろう
line
amazon書籍
line
アルパカ版の恋太郎です
line
映画『副王家の人々』より
副王家の一族 
line
イアリング
 ekubo
line
チャイナドレス
chainadoress
line
ポーズ
sofa
line
魯迅記念博物館
inu
line
陽だまりの乙女
usagi
line
裸婦
うつぶせのジャスミン
line
sakasu
line
打ち上げ花火をあげられる四季の風景時計
line
PC広告Amazon
line
テーブルと椅子
椅子3   
line
sub_line
プロフィール

奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)

Author:奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)
1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

line
ranking 1
 
line
ranking 2
人気ブログランキングへ
line
置手紙
おきてがみ     
line
Twitter ぼたん
Sweetsman7をフォローしましょう
line
レッドバロン
line
検索フォーム
line
QRコード
QRコード
line
所収作品について
文献・画像等引用の場合は引用元を記載。自作小説倶楽部作品著作権は各著者に帰属。それ以外の文藝作品・絵画写真画像に関する諸権利は当該ブログ管理人に帰属。無断複写転載を禁じます。
line
カジュアルのシナモン
シナモンアップ 
line
リンク
line
マラッカ要塞
marakka
line
珈琲館の割れ甕
城南
line
地図
line
草原の乙女
sougenn
line
バー
eruhurio  
line
海へ行こう
umiheyuku2
line
祖母
  umiheyuku 1
line
洗い髪
araigami
line
癒しの音楽
line
sub_line