伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 社主謀殺 (シャベル4)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

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社主謀殺 (シャベル4)

私は本気である男を殺そうとしていた。もちろん、ナイフなど使わない。合法的に追い詰めて、自殺させる企てである。「再就職に有利だから」と周囲に説明して法律を学んでいたのはそういう魂胆からだった。

ある男というのは、当時私が所属していた遺跡発掘会社の社主だ。肩書は慶応大学中退と経歴書には書くのだが嘘だった。

嘱託職員として入社したての頃であるバブル末期、社主は羽振りが良く、頻繁に宴会を開いていた。高速道路、ゴルフ場建設といった大型プロジェクトに伴う事前調査が目白押しとなり、年商十六億円となっていた。

嘱託時の給与といえば社会保険込の日給月給で、日割りにすれば手取り七千円ほど。ゴールデンウイークや盆正月のある連休にかかる月は生活費が足りなくなり、昼食がカップ麺が続くこともあった。

そういうときも、社主は複数の愛人にマンションを与え、間に私生児をもうけ、毎日接待と称して遊びほうけ、年間二億円を浪費していた。十階建てのビルを買い、家族には発掘関連のリース会社、愛人には画廊、居酒屋、そして自分には母体となる遺跡発掘会社の上がりをプールするために設立した幽霊会社を複数持っていた。

宴席は料亭が多かった。社員一人につききまってコンパニオン一人がつけられた。「宴会でもてなさずとも良いから、給料をあげてくれよ」と社員の誰もが思っていたものだが、太鼓持ちがいるのか、悪癖は収まらない。

入社後、数年した頃、料亭に私と後輩が呼び出されたときは、食いかけの握り飯を渡され、「食え」と強要された。後輩と二人で、(犬かよ)と思ったものだ。遺跡でも作業員たちがいるところで、飲みかけのコーラを渡して、「飲め」と命じたこともあった。

しかしながら、祖母や父が亡くなったときは、二百キロ離れた実家まできて線香をあげるという義理堅いところもあった。

正社員となって年収は四百三十万円ほどとなるが、バブル崩壊による不況、「失われた十年」で、業績は悪化、賞与がなくなった。七十万円ほど収入が減った。



会社が倒産する直前、私は実力不相応の「火消し役」を命じられていた。つぎつぎと上司・同僚が辞めていくので、彼らがやり散らかしたデータを再整理して、報告書に仕立て直してゆく。一方で、談合済みの入札会場に封書をだしてわざと負ける。そんなこともやらされた。もちろん、遺跡で調査もする。

社主が現れて、隣地の畑境界に、ユンボで穴を開け、地権者を怒らせ、私に苦情処理させた。一方で社内では私が失敗したと吹聴して回っていたという。

入札の書類受け取りのため、私の車で会場に向かうとき、社主は禁煙車である私の車で煙草を震えながら吸い、鳴き声で、「なんとかしてくれ、助けてくれ」と目を腫らしていった。社主は何かと私を宴席に誘いたがった。魂胆は見えている。金を借りて踏み倒すというのだろう。

会社倒産後、周囲の話によると、職員一人当たりから借りた金は、百万円から数千万円におよぶと訊かされた。

当時二十代だった後輩職員は、自信のない性格で、周囲から小馬鹿にされていた。社主は未熟だという理由で嘱託職員に降格させられたことがあった。その彼から百万を借り、直後に、封書から五十万円を抜き取って、「さあ、飲みに行くぞ」ともちかけ、周囲を閉口させたという。



会社が倒産する年のはじめのことだ。上司に引き継ぐまでの一週間ほどの期間、成田空港隣接地で旧石器遺跡の調査があり、地元財団の老調査員を手伝うことになる。「財団ではナンバー・ツーの席にいる人だ」と社主が説明した。

老調査員がくるまで社主が陣頭指揮する。社主は頻繁にオペレーターに指示を出さないと気が済まない。私にもそうするように命じた。相手は熟練しており、そんな必要などないというのにであるから、うるさがるのは必定だ。

ようやく老調査員がきて、仕事をくむようになると、途端にやりやすくなった。

「オペへの指示は最低限がいい。落ち着いて仕事なんかできやしない。ところで、あんた、いつも悲しい顔をしているね。スマイルが大事だよ。スマイル、スマイル」

浪曲の様なだみ声の老調査員は豪快に笑った。社主はこの人がくると手もみして応対したものである。



その会社で最後に関わった遺跡は千葉県北部にある都市中心部である。千葉県の都市というのは案外耕地が多く、駅付近だというのに広大な空き地が存在していた。古墳時代から平安時代にかけての竪穴住居がまばらに点在する程度の集落跡で、仕事は簡単に終わるという触れ込みだった。

ところが、ユンボで耕作土を除去し、関東ローム層上面まで掘削するや、姿を現したのは、平安時代初頭の「駅屋」あるいは「郡衙」という役場関連施設で、Sクラスの遺構群だった。

この手の遺構は直径五十センチ、深さ百五十センチ前後の規模の柱穴を長方形に並べた掘立柱建物跡というもので、立て直しをするため、ラインの組めない単独でみつかる柱穴を含めると数百基の柱穴となった。

入札で破格の下げ値でとった発掘である。正規職員・アルバイトの作業員に対しての賃金もままならない中、監視役である教育委員会が要求する調査方法は、コストがかかり過ぎ、対応することは不可能である。

柱穴は深く単調なものである。周囲にあった土を放り込むので、上層で検出される遺物は遺構に対して時期が古くなってしまい時期を判定する決めてにはならない。竪穴住居跡の上層でみつかる遺物も同じだ。そういった遺物を、教育委員会側は最新の「光波測量」で、片っ端から位置を押さえろと命じた。

しかしながら、会社重役の一人が給与未払いを理由に、測量機材を差し押さえたため、数台必要なところを、一台しか調達できない。



教育委員会の指導というものは摩訶不思議なものであった。数万平米におよぶ広大な調査範囲には他社の担当エリアも存在する。一隅には二階建てのプレハブがあり、そこから双眼鏡で、こちらを監視する。まるで囚人だ。

プレハブから現場に出てくる監視係は三人いた。いずれも調査には未熟な人々で、マニュアルを重視して現実をみようとしない。しかも、発見された柱穴群がきわめて重要な施設であるということを見落とし、上司が、倉庫の鍵をみせても無関心であったくらいだった。

柱穴覆土の状態をみるために、覆土を半分に切り、断面図をつくる。そういうときは、監視係の一人が必ずいて、後ろから、「間違った線だ」と指摘する。そんな時間があるのなら、自ら線を引けばよいではないか。

彼らは会社の内情を知っており、何かとクレームをつけてくる。班長となった上司に管理能力がないことも見透かしている。昼食直後はゼネコン事務所の広間で、ミーティングと称し、班長は吊るし上げをくらった。昼も酒臭さが抜けず、目つきが座って、意味もなく罵声をあびせてくる。

債権者から逃げ回っていた社主が、居場所を求めて遺跡に立ち寄ると仕切りたがった。演説をぶって作業員たちを閉口させる。若い主婦を集めて中央で意味のない仕事をする。しかもミスばかりだ。

現場に出ると、記録をとっていない遺構の土層観察用のベルトを壊して、工期を早めようとして教育委員会の怒りを買う。一つのエリアが終わったとき、図面検査というのがあって、記録整理の体制に不備であるとのことで、夜にまたゼネコン広間に集められ、ミーティングという名の吊るし上げを食らわせられる。

遠からず会社は倒産するだろう。不思議なほどになかなか潰れないのは、おびただしい数の債権者がいるからだった。騙されたと判った会社債権者の一人が自殺したという話も訊いた。職員の中には、「うちの会社は存在そのものが悪だ」と嘆く声もでた。

(われわれは、社主がすすった生血の分け前をもらって生きている。誰かが勇気をもって、リセットスイッチを押さなくてはならない)

私は軽い眼底出血を起こした。家族と相談し、これを理由に、「辞表を」だす。社主は、「時間をくれ。俺にも意地ってものがある。あと二か月はもたせてやる」といきまいた。

(何をいっているんだ、こいつは。その二か月でまた死人を出す気か)

辞表は受理しようとしない社主のほかに、もう一枚用意して経理部に届けた。休日出勤代休、有休をもちだして早々に遺跡から立ち去る。一方で給与が二か月半分滞納されていることを労働基準監督署に電話で告げた。資格をもつ調査員は人数が限られる。私が抜けて、補充ができず、契約不履行となった会社はまとも攻撃された。

会社は一か月で潰れた。しかし、「武士の末裔」を称した社主にプライドというものなど微塵もなく、自殺に追い込もうとはしたが死なない。(無脊椎動物か) 社主は、その後、一か月間に雲が隠れをして、かつて経営していた画廊から、絵画などの資産を愛人宅に運び込んだ。

破産後、重役の一人を社長にしたてて、新たな発掘調査会社をつくろうとしたが、蓄積された悪評で顧客がつかず自滅。造園会社の営業をしているとのことである。 

刃物こそ使ってはいなかったものの、人を刺したからには返り血は浴びる。会社が後方支援してくれない状況下で対応していたために生じた調査の欠陥を例の監視係が突いてきたようだ。さらに監視係たちの調査方法や指導で失敗を私になすりつけ、千葉県エリアから締め出したということを後で訊くことになる。



かつて、トンボの絵を見て石器研究方法を教えてくれた室長が独立して会社を立ち上げていたので、そこを訪ねる。千葉県から立ち退くので挨拶程度のつもりだったが、
「うちにこないか」といってくれたので、嘱託社員で入ることになった。

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