伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 雪が降っていたから19 恋太郎白書56
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

雪が降っていたから19 恋太郎白書56

【本編】 

むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎《れんたろう》とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。 



麻胡の実家に行き恋太郎は土下座して、「若輩ですが、どうぞ麻胡さんをください」と先方の両親に土下座した。即答はなく、「考えておきましょう」だった。感触としては悪くない。次に、問題の実家である。

父の勇作は脚立の上に立って庭の松を手入れしていた。

「例の件で話があるんだ」

「では話せ」

「確かに、麻胡さんは未来を見通せる。僕との間に子供ができたとして、能力を受け継ぐ可能性は高い。けれど、こうも考えられないかな。人はビジョンというものをもって行動する。それに対して不幸だと考える人はいるかい。少なくとも僕はこの結婚を後悔しないし、僕自身は幸福になれると確信している。もちろん麻胡さんもね」

勇作は、脚立の上から恋太郎の頭に手加減せず拳骨を食らわせた。

「泣かなくなったな」

勇作は脚立を降りると、麻胡の前に立って、深々と頭をさげた。

「いろいろいって申し訳ないことをしました。要はこいつの、ふにゃふにゃ、した感じが気に入らなかったのです。馬鹿息子ですがよろしくにお願いします」

勇作は今度は頭をさする息子の腹に一撃をくらわせ、何事もなかったかのように、脚立に昇って行った。すると縁側から声がする。

「麻胡さん、恋太郎、梨でもおあがんなさいな」

母の友里恵が縁側にいて梨を剥いていた。一部始終をみていたらしい。



旧友と夜更けまで飲んでいた勇作は、帰宅するなり友里恵の書き置きをみつけて、実家に戻るという内容、離婚する旨とその経緯を読んだ。みなもっともなことである。酔いもあって、そのことについて母屋にいた連中に一言いってやろうと乗り込んでみると、

「なんて、身勝手な嫁なんだ」

という話になった。この話には勇作もついに切れ、テーブルをひっくり返して拳を振り上げた。長身で鍛えている。本気で怒らせたら家中の誰も止めることはできない。たちまち騒然となって、蜘蛛の子を散らしたような騒ぎとなった。取り押さえようとした次弟、仲弟、末弟が襖やら畳に弾き飛ばされた。

このときたまたま用があって遅くにやってきた勇作の叔父が茶の間に入ってきた。「勇作、俺がいうのもなんだけが、騒いでないで友里恵さんを追いかけるべきじゃないのか」という話になった。

「追いかける。いま何時だ。友里恵はとっくに汽車に乗っているはずだ」

「間にあわなけりゃ。駅待合室で寝て、始発に乗って迎えに行ってやればいいだけのことだ。夫婦じゃないか」

叔父は、自分が乗ってきたタクシーにまだ酔いの残った勇作を押し込み、自分も横に座って平駅に向かった。やはり、プラットホームには、勇作のいうように友里恵はおらず、最終列車も出た後だ。叔父は手もみしながら息をふきかけ、

「勇作、思い出さんか、友里恵さんと出会ったのも磐越線だったよな。まだ雪がのこっていたわい。まさかあの娘さんと結婚するとは思わなかった。そして逃げられるとも思ってなかったよ」

そういいながら深淵の夜空を見上げると、プラットホームの電灯に、空から舞い降りてきた白いものが舞い降りてきた。叔父は手さげ袋からニッカウイスキーのボトルを出して、ぐい飲み大のグラスを勇作に一個やった。

「夕方、実家に行く前に買っておいたんだ。急におまえと飲みたくなってな。朝までつきあうからこれを飲んで身体を温めるぞ」

といって待合室に引き返していった。深夜まで叔父と飲み明かしたのだが、朝までもたずに少しベンチで寝た。勇作が浅い眠りの中にあったとき汽笛が鳴り、それで目が覚めた。

(始発か)

勇作は時計を観た。まだ三時を回っていない。始発の時間にはまだ二時間以上もある。不思議に思って宿直の駅員に聞いてみた。

「郡山の手前で大雪があったんですよ。しばらく待機したんですがね除雪が追いつかないんで引き返すことが決まったんですよ」

勇作は、見送り出迎え用の入場券を求めて白銀に包まれたプラットホームに駆け込むと、やがて引き返してきたD51機関車がしゅーしゅー音をたてて入ってきた。

勇作は客車に友里恵がいなか車窓をのぞき込みながら走る。友里恵は車掌車に連結された客車再間後尾にいてうたた寝していた。ついにその人をみつけ客車に飛び乗り、席の隣に立つと友里恵が目覚めるのをずっと待ったのだった。

それから数年、勇作夫妻は、職場に近い平市街のアパートに移り住んだ。友里恵は、そこで恋太郎を無事出産してから、また勇作の実家に戻ったのである。

        雪が降ったていたから二人は出会い、
        雪が降っていた頃に二人は結ばれ、
        雪が降っていたから二人はまた元に戻った。


(つづく)  「雪が降っていたから」は次回が最終回



【脚注】

恋太郎《れんたろう》:勇作と友里恵の子。会社員。
麻胡《まこ》:恋太郎の妻。宇宙飛行士。
勇作:斜陽の旧家当主。教師。登山家。
友里恵:勇作の妻になる。教師。
美佳《みか》:恋太郎の同僚。


  
スポンサーサイト

theme : 自作連載ファンタジー小説
genre : 小説・文学

line

comment

Secret

line
line

line
Google ペイジランク
ページランク-ナビ
line
奄美剣星
line
文鳥貴族
文鳥貴族
line
最新記事
line
「怪盗めろん」

 

line
「文鳥王トリスタン」
 
line
ブクログ
line
小説家になろう
line
amazon書籍
line
アルパカ版の恋太郎です
line
映画『副王家の人々』より
副王家の一族 
line
イアリング
 ekubo
line
チャイナドレス
chainadoress
line
ポーズ
sofa
line
魯迅記念博物館
inu
line
陽だまりの乙女
usagi
line
裸婦
うつぶせのジャスミン
line
sakasu
line
打ち上げ花火をあげられる四季の風景時計
line
PC広告Amazon
line
テーブルと椅子
椅子3   
line
sub_line
プロフィール

奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)

Author:奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)
1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

line
ranking 1
 
line
ranking 2
人気ブログランキングへ
line
置手紙
おきてがみ     
line
Twitter ぼたん
Sweetsman7をフォローしましょう
line
レッドバロン
line
検索フォーム
line
QRコード
QRコード
line
所収作品について
文献・画像等引用の場合は引用元を記載。自作小説倶楽部作品著作権は各著者に帰属。それ以外の文藝作品・絵画写真画像に関する諸権利は当該ブログ管理人に帰属。無断複写転載を禁じます。
line
カジュアルのシナモン
シナモンアップ 
line
リンク
line
マラッカ要塞
marakka
line
珈琲館の割れ甕
城南
line
地図
line
草原の乙女
sougenn
line
バー
eruhurio  
line
海へ行こう
umiheyuku2
line
祖母
  umiheyuku 1
line
洗い髪
araigami
line
癒しの音楽
line
sub_line