伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 雪が降っていたから18 恋太郎白書55
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

雪が降っていたから18 恋太郎白書55

【本編】 

むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎《れんたろう》とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。 



長期休暇の初日、恋太郎と麻胡は、村上駅前から新潟に向かう列車に乗った。どういうわけだか蒸気機関車がきたので乗ってみる。二人は、それぞれの実家にゆき、もう一度挨拶にいくのだ。

「恋太郎君、麻胡さんの前途を祝し万歳」

見送りに来た営業所スタッフがそんなふうにして送り出す。二人は結婚の意思をいよいよ深く固めての出発だった。ホームにいる人々が空を仰ぐと暗雲がたちこめている。

「そういえば台風がくるって、予報だったよな。この二人、嵐を呼ぶカップルだなあ」

営業所長がそういうと皆がうなづいた。営業所長と並んでいた美佳の隣には見慣れぬ男性がいる。美佳の婚約者だ。

車窓からみえる美佳たちをみて、麻胡は恋太郎の額を小突いた。

「恋太郎君、美佳さんとの件、惜しいと思ってはいないかね」

「そ、そんなことはありません」

「嘘が下手ね」

「そ、そんなことはありません。ありません」

(しまった、麻胡先生は魔女だった)

「だから、仙女の子孫といってるでしょう」

麻胡が笑った。



波は何度も寄せてくるものだ。勇作と友里恵の結婚が順風であったそのぶん、次の波は結婚生活を直撃した。大家族のうえに貸し屋と居候、近隣の一家が風呂をもらいにつぎから次へとやってきて、嫁いできたばかりの友里恵が入浴する順番はきまって最後となった。

築百五十年を越す茅葺き民家屋根の頂には煙りだしの窓が開いている。そこから強風が吹くと希に室内へ雪をまき散らすのだ。友里恵が起きあがると室内は銀世界となっており、早速、雪を払ったりふきっとったりする作業となった。

勇作の家の人々たちは起床が早い。まだ新任で学生気分の残っていた友里恵は宵っぱりで朝寝坊であったため苦痛であった。台所にいけば、すでに姑、小姑が台所で朝餉の準備をしておりときたま、「遅いですよ」と叱られた。

台所には一応プロパンガスがあったのだが、大所帯であること、ただであることから、農地解放開放からお目こぼしのように残された所有森からとってきた薪木を、土間に置かれた竈にくべて飯を炊く。おかずの皿は卵、納豆、海苔、香の物、それに姑が得意とする芋サラダが加えられている。とごくあたりまえのものばかりだが、友里恵の実家よりも皿数が多く首をかしげてしまうところだった。

(貧乏大所帯のくせに、なんて見栄っ張りなのかしら)

庭と庭先の道路に落ちた枝葉を掃いていた勇作がきたところで朝食となった。六時前後だ。それから家の女たち全員で食器を洗い、通勤・通学が始まる。毎日が戦場のようだ。翌年、友里恵は懐妊したが死産となった。

勇作は、友里恵のために、居候とともに離れである馬屋を改装した門二階にいる次弟にかけあって部屋を交換するように頼み、そこへ移った。しかし急階段があり、翌年懐妊した友里恵は腹部に負担がかかり胎児を名がしてしまった。そうこうして都合三人の子を失ったのである。

友里恵が嫁いできたことで、勇作の家は、夫婦友稼ぎとなってまとまった現金収入を得た。このため下にいた弟妹たちの学費養育費はなんとか工面できるようになった。勇作の母は当然という顔で、勇作夫婦が入れた資金を、あたかも自分が稼いできたかのように、勇作の弟や妹たちの養育費にあてた。このため弟妹は、長兄夫婦の存在を軽視したのである。

友里恵を怒らせたのは、思春期を迎えた気の強い三女が、「あなたの世話になんかなってないわよ」という発言だった。さらに、勇作の母親が、「私の誕生日だから、指輪でも贈りなさいな」という言葉だった。いうとおりに贈ったのだが母親は当たり前のような顔をしている。

就職はしているものの次弟は、長期出張すると、飲み代で給料の大半を使い込むらしく、送金を頼みこんだ。帰ってきても手伝うことはなく、田植え稲刈りのときでも、ごろごろしていて、酔えば猫のように屋根に登って遊んでいる人だった。

(だっ、駄目だ。あったまにきちゃう)

勇作と家を出て暮らすといっても、わがままな「駄目嫁」として周囲が許さない時代だ。その家から離れて暮らすということは離婚でもしないと実質不可能であった。勇作の家に嫁いでから三年経った春休みの夜、ついに友里恵は実家に戻ることを決め込み、磐城に着任してきたときに持ってきたトランクに貴重品を詰め込んで、平駅から磐越線の汽車に乗り込んだ。

(つづく)



【脚注】

恋太郎《れんたろう》:勇作と友里恵の子。会社員。
麻胡《まこ》:恋太郎の妻。宇宙飛行士。
勇作:斜陽の旧家当主。教師。登山家。
友里恵:勇作の妻になる。教師。
美佳《みか》:恋太郎の同僚。

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