伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 雪が降っていたから17 恋太郎白書54
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

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雪が降っていたから17 恋太郎白書54

土夜早朝。また少し書けました。出張先から帰宅する前の更新です。

【本編】 

むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎《れんたろう》とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。 



麻胡が、岩場で高波にさらわれたとき、営業所スタッフもいたのだけれども、呆然と立ちすくむばかりで、美佳以外は誰も動こうとはしなかった。美佳は海面ではなく海の家
に走り出し、サーファーに手身近に事情を交渉した。サーフィンで麻胡を救おうというのだ。短いジーンズとTシャツ、はだしといった軽装で、再び、サーフィンを手にして海へと漕ぎ出す。

麻胡は泳げないわけではない。むしろ熟練しているといったほうがよい。ただ、長袖のブラウスと膝丈ほどののスカート姿であったため、衣服が四肢に絡まって自由が利かない。このままでは美佳がくるまえに溺れてしまう。

恋太郎は邪魔な衣服を全部脱いで海に飛び込んだ。何をみられて恥とするのだ。そういう気概があった。水泳選手でもあった父の勇作に叩き込まれた泳法、溺れた人に対する救助方法が脳裏をかすめる。

(気づかれぬように、潜水して、相手の後ろに回り込め。そして、あごに手をかけて泳ぐんだ。もしパニックをおこしてしがみついてきたら、一緒に水中に沈むといい。そうすれば相手は手を離す。そこで再トライする)

恋太郎はイメージ通りに行動した。抱きついてきた麻胡を水中に沈めたそのとき、その人の四肢にまとわりつく衣服をためらわずに破り、靴も脱がす。手足が自由になった麻胡は、恋太郎の助けを必要とするまでもなく、自力で泳げるようになった。

やがて、美佳がサーフィンで近寄ってきた。

(麻胡先生、けっこう泳げるな。助けてやるといったら波打ち際に上陸するときの格好だ。バスタオルでも準備してやろう)

そうんなふうに、つぶやいてまた浜辺にサーフィンを向け、浜茶屋に駆け込んだ。

二人は、直接海岸に向かって泳ぐのではなく、海流を利用しながら斜めに北上して脚のたつところまできた。

「恋太郎君、いざとなると機転がきくね」

「惚れ直しましたか」

「惚れ直したよ」

二人は顔を合わせて笑った。浜茶屋から飛び出してきた美佳が海面に入り、持ってきたバスタオルを麻胡に渡す。そこにきて初めて恋太郎は顔を赤らめる余裕をもった。

「あのお、美佳さん、僕のタオルは」

「ないわよ。恋太郎さんのを、みんなで鑑賞しようと思って」

恋太郎が情けない声をあげた。


勇作は猫が嫌いだった。そういう人を猫は好む。なにゆえに猫が猫嫌いを好むかといえば、かまわれるのが苦手だからである。友里恵の実家は会津若松市の北側に隣接した小村で農業を営んでおり、屋敷と米蔵が連結した家屋であったことから、米をくらおうとする鼠が絶えない。自然、猫を飼うというわけだ。

勇作と友里恵が並び、囲炉裏を挟んだ向かいに村会議員である友里恵の父親が座っている。正座した勇作の膝の上に三毛猫がのってそのまま眠った。友里恵は勇作が猫嫌いであることを知っていて、なおかつ勇作が猫好きの父親の起源をとるため、三毛猫をなでているのがおかしくていまにも吹き出しそうになっていた。友里恵の父親が囲炉裏に炭くべた。

「勇作君、しかし勇作君が三春藩の人間じゃなくて良かった」

「えっ、それはどういうことですか?」

「戊辰戦争のとき、三春藩が真っ先に官軍に降った。三春藩の卑怯な振る舞いがなかったら会津が落ちることはなかったんじゃ」

勇作は違うと思った。時勢というもので列藩同盟には勢いがなく、時の声を聴いた官軍に攻められた小藩三春藩はひとたまりもなく弾き飛ばされただけだ。二本松藩は玉砕したもののそんな藩はほかにない。第一会津藩だって最後には降伏したではないか。けれどもそこは我慢して黙ることにした。友里恵との結婚を前にすればすべては小事に過ぎない。

会津にゆくまえ、友里恵は勇作につれられてその家の門をくぐっていた。友里恵の実家の屋敷よりも広く、貧乏な割に人が頻繁に出入りしているのが物珍しい。勇作の母親は友里恵を一目みるなり、

古い家の娘さんのようね。しつけもしっかりなされているようだし。

「ようございましょう。勇作をよろしくお頼みします」

という話になり、あまりにもすんなりいったので勇作は、

(美智留のときとは偉い違いだ)

と逆に当惑したのだった。

新郎新婦両家に障壁はない。二人は翌年の春に入籍し、平城南(たいらじょうなん)中学校校長を媒酌人として祝言をあげたのだった。どういうわけだかこの二人は雪に縁がある。祝言を行った料亭の中庭には季節はずれの雪が積もりだしていた。

(つづく)




【脚注】

恋太郎《れんたろう》:勇作と友里恵の子。会社員。
麻胡《まこ》:恋太郎の妻。宇宙飛行士。
勇作:斜陽の旧家当主。教師。登山家。
友里恵:勇作の妻になる。教師。
美佳《みか》:恋太郎の同僚。

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theme : 自作連載ファンタジー小説
genre : 小説・文学

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comment

Secret

No title

昔の古臭いしきたりを重んじる恋と、
裸で助けに入る、恋太郎さんと・・・

なかなか、おもしろいですね(*^。^*)

くろこ姫様

どちらかというと
人工というよりは天工を期待した効果
うまくでて読んで下さる皆様を楽しませて
くれたら幸いと思い描いています

いつも丁寧な感想、恐れ入ります

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