伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 雪が降っていたから16 恋太郎白書53
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

雪が降っていたから16 恋太郎白書53

土日の夜に少し書けました。年末というのはなぜに毎度慌ただしくなるのでしょうねえ。


【本編】 

むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎《れんたろう》とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。 



笹川流れは山形県との県境に近いところにある。リアス式海岸で、入り江をなした浜辺には奇岩が小島が群れをなしており、仙台の松島を少し小ぶりにしたような場所だった。

浜辺に陣取って、地元スタッフが準備したバーベキューセットで肉野菜、そして釣った魚を焼いて昼食をとる。麻胡は美佳ととくにぶつかる様子でもなく、料理や日常の出来事を話していた。

昼食がすむと、営業所長は男子スタッフを引き連れて魚を釣りにゆく。

「ねえ、私たちもいかない」

麻胡がいったので、手をとって、岬となっている奇岩のひとつに登ったそのときである、不意の高波がきて麻胡を沖合にさらっていった。



冬休みを前にした終業式の日、生徒たちは昼食をとってから下校した。

夕刻、昼休みに電話で予約をとっていたメキシコ料理レストランに友里恵を誘って、コースをとった。テーブルに皿が並べられる間に、互いの家の話題をした。二人とも朝ほど緊張した感じではないが、少しよそよそしい。勇作は自分の家族の話題をした。

少し打ち解けてきた友里恵がつづいて家族の話題をした。

戊辰戦争後に帰農した会津藩士の家であること。祖父が若い頃怪我をして、会陽館医に通院していたとき、あの野口英世博士に包帯を巻いてもらったこと。父親が小学校校長をしていて、退職後に村会議員となり、選挙資金集めから田地数枚を売って散財したこと。勇作と同じ七人兄弟姉妹であること。就職が決まって磐城地方に赴く直前に、叔母からの縁談話がもちあがったこと。

そんな話をとりとめもなく続けた。なかなかいい雰囲気だ。

やや引っかかるのは、官軍に対して本格的抵抗を最後まで貫いた会津藩の藩士の家というところであった。人の恨みは数代に渡って続くものだ。戊辰戦争というのはその頃まで影を落としている。

官軍勢が江戸に入ったとき、東北新潟では旧江戸幕府に同情的な奥羽越列藩同盟という大名家による軍事同盟が締結していた。この同盟軍、義のために立ち上がったといえば訊こえはいいが、人数ばかりは多いわりに、旧式装備で志気が低かった。

戊辰戦争は、会津戦争がもっとも有名であるが、実際は、関東甲信越から東北にかけての各地で衝突があったのである。

列藩同盟で強かったのは長岡藩、会津藩、庄内藩。反対に弱かったのは盟主である仙台藩だった。磐城地方には平、泉、、湯本の三藩で、これもまた弱かった。会津やら仙台藩それに今の千葉県木更津市にあった請西藩が部隊を送って善戦したものの、官軍の名将板垣退助にことごとく撃破された。

板垣退助は、「人たらし」で有名な坂本竜馬の親戚筋にあたる。木村屋のビスケットを子供たちにふるまうなどして地元住民を手なずけた。地元住民たちは藩を見捨てて官軍側に寝返ってゆく。これを知った地元諸藩の武士たちは逆上して民家に火をつけてまわったのだ。

郷士の家であった勇作の先祖は、地元湯長屋藩を見限って、村落代表となり官軍遊撃隊将に面会して三十両の献金を行って感状を受けた。また勤王の志士であったことも列藩同盟より官軍をひいきにさせた。

(まるでロミオとジュリエットだな。このことは伏せておこう。先方が聴いたら即破談になってしまう)

ウェイターがテーブルに皿を並べていくのを眺めながら、勇作はそんなふうに思った。


(つづく)




【脚注】

恋太郎《れんたろう》:勇作と友里恵の子。会社員。
麻胡《まこ》:恋太郎の妻。宇宙飛行士。
勇作:斜陽の旧家当主。教師。登山家。
友里恵:勇作の妻になる。教師。
美佳《みか》:恋太郎の同僚。

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